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今月のキーワード

磁力線再結合(磁気リコネクション) / トポロジカル相 / 非アーベリアン / プランク長さ / (時空の)コンパクト化 / 重量容量密度 / ショックレー-クワイサーの限界 / 外部量子効率と内部量子効率 / オージェ過程 / ストレンジメタル / タンパク質立体構造データベース / X線小角散乱

●磁力線再結合(磁気リコネクション)[magnetic reconnection]
逆向きの磁力線がつなぎ替わることによって,磁気エネルギーが爆発的にプラズマのエネルギーに変換される過程のことをいう。「磁力線つなぎ替え」や「リコネクション」ともいう。プラズマ中の磁力線はゴムひものような性質(磁気張力)をもっており,磁力線がつなぎ替わってパチンコのゴムひものような形状が生まれると,パチンコ玉が弾き飛ばされるのに似てプラズマが激しく加速される。これにより磁気エネルギーがプラズマの運動エネルギーに変換される。また,爆発的な加熱や非熱的(高エネルギー)粒子の加速も起こる。(p.4「太陽からの噴出現象」)

●トポロジカル相[topological phase]
物質の状態は温度や圧力などのパラメーターによって変化するが,その中で共通の性質によってひとくくりにできるものを「相」とよび,それによって物質の状態を分類することができる。液相と固相,強磁性相と常磁性相などがその例である。異なる相は,粒子の密度や磁化などの局所的な物理量によって特徴づけられ,したがって局所的な物理量の測定によって区別することができる。これは,相転移に伴う自発的対称性の破れによって,系がもつ何らかの局所的な性質に不連続が生じることによる。「トポロジカル相」とは,そのような自発的対称性の破れの概念ではとらえることのできない非自明な量子相であり,系の局所的な性質では区別できず,大局的な性質によってのみ特徴づけられる。その特徴として,ハミルトニアンがわずかに変化しても,相を特徴づける性質は不変であり,とくに基底状態が縮退している場合,その縮退は解かれない。これは外部擾乱に対する量子状態の堅牢さを意味する。(p.14「トポロジカル相と準粒子の組みひも」)

●非アーベリアン[non-abelian]
系が複数の同種粒子によって構成されている場合,通常,粒子の入れ換えによって状態は変化しない。したがって粒子交換の効果は,多粒子系の波動関数に定数を乗じることとして表される。この定数はボソンでは1,フェルミオンでは−1であるが,数学的には複素数も許され,これをエニオンとよぶ。いずれの場合も交換の効果は波動関数にスカラーを乗じることであるから,3つ以上の粒子(または準粒子)がある場合,結果は交換の順序には依存しない。これを可換(アーベリアン)という。一方,準粒子を入れ換える順序によって系の状態が変化するようなものも理論的には可能であり,これを非可換(非アーベリアン)という。そのような準粒子の入れ換えの効果はユニタリ変換に相当し,これを量子ゲート操作とした量子計算(トポロジカル量子計算)が提案されている。(p.14「トポロジカル相と準粒子の組みひも」)

●プランク長さ[Planck length]
自然法則に現れる3つの基本的な物理定数を用いて,
数式1
と表される長さ。ここで,hは量子力学に現れるプランク定数を2πで割ったもの,Gは万有引力の法則に現れるニュートン定数,またcは真空中の光速度であり,相対性理論において鍵となる物理定数である。
数式2
という極微のスケールに相当し,そのくらいのスケールでは,時空の量子論的性質が顕著になるために,一般相対性理論に基づく時空の記述が破綻すると考えられている。同様に,
数式3
と表されるエネルギースケールをプランクエネルギーとよぶ。(p.24「超弦理論の数値シミュレーションが示唆する宇宙の誕生」)

●(時空の)コンパクト化[compactification of space-time]
超弦理論に現れる(9+1)次元の時空から,われわれの住む(3+1)次元の時空を導くための考え方。9つの空間方向の次元のうち6つの(余剰次元の)方向が,何らかの形で小さく丸まっているとする。コンパクト化の仕方は無数に考えられ,その仕方によって,(3+1)次元の時空上にさまざまな粒子や相互作用が現れる。行列を用いた超弦理論の新しい定式化においては,時空のコンパクト化に相当することが,理論の力学的性質により自然に実現することが示された。(p.24「超弦理論の数値シミュレーションが示唆する宇宙の誕生」)

●重量容量密度[specific capacity]
電池の容量を,重量あたりに換算したものを,重量容量密度(Ah/kg)という。体積あたりに換算したものは,体積容量密度(Ah/L)。それぞれの容量密度に電圧をかけ合わせたものをエネルギー密度といい,重量あたりならびに体積あたりの単位は,Wh/kg,Wh/Lである。これらの値は,単位重量あるいは単位体積あたり,一定の電力(W)の使用で何時間もつかを表す数値であり,同じ電力を蓄えるための電池の重量や体積を示すもので2次電池の性能の指標となる。(p.32「蓄電機能を内蔵した新しい太陽電池」)

●ショックレー-クワイサーの限界[Shockley-Queisser limit]
1961年,ショックレーとクワイサーはどのような半導体を用いても太陽電池の効率は32.7%を超えることができないと提唱した。この限界を提唱者にちなみ「ショックレー-クワイサーの限界」という。バンドギャップが低下すると開放電圧が低下する。バンドギャップが上がると短絡電流が低下する。このため,理論限界変換効率はバンドギャップが1.4 eV付近で最大値をとる。(p.35「多励起子生成による太陽電池効率の増強」)

●外部量子効率と内部量子効率[external quantum efficiency (EQE), internal quantum efficiency (IQE)]
1個の光子が太陽電池に吸収されると,その光子は電子・正孔対をつくる。電子または正孔がp-n接合に到達し電流になると,その担体は収集されたという。そうでないとき,担体は再結合して電流に寄与しない。量子効率は,太陽電池を短絡条件で動作させたときに電流(すなわち収集された担体)に変換された光子の割合のことをいう。外部量子効率(EQE)は,光の伝搬や反射による損失の効果を含むのに対し,内部量子効率(IQE)は,反射や透過の影響を受けない光子についての効率を指す。(p.35「多励起子生成による太陽電池効率の増強」)

●オージェ過程[Auger process]
本来の意味のオージェ過程とは,内殻に空いた空孔を原子内の高いエネルギーをもつ電子が埋めるとき,差のエネルギーを光として放出せず,原子内のほかの電子に与えて原子から放出する過程を表す。半導体においては,電子正孔対が再結合するときに,そのエネルギーを伝導帯の電子に与えて,高い準位に励起する過程をいう。この逆過程は「衝突電離」とよばれる。(p.35「多励起子生成による太陽電池効率の増強」)

●ストレンジメタル[strange metal]
異常金属(anomalous metal)ともよばれる。金属は本来複雑に相互作用する多体系だが,ランダウのフェルミ流体論ではとり扱いが容易になり,相互作用をほとんど起こさない準粒子によって表される。この正常な金属と比べ,熱力学的および輸送的性質が異なるものを,ストレンジメタルとよぶ。代表的なストレンジメタルとして,高温超伝導を起こす銅酸化物が挙げられる(超伝導転移温度以上で,不純物濃度が中間的な場合)。正常な金属では抵抗は温度の2乗に比例するが,銅酸化物では抵抗は温度に比例する。ストレンジメタルは,物性論のみならず,素粒子論の分野でも注目されている。(p.42「ブラックホールからストレンジメタルへ」)

●タンパク質立体構造データベース[Protein Data Bank (PDB)]
さまざまな実験方法で決定された生体高分子(タンパク質,DNA,RNA,生体膜など)の原子座標データが格納されているインターネット上にあるデータベース。米国,ヨーロッパおよび日本の3拠点で管理運営されている。1つの測定データが,1つのフラットファイルに,PDB形式とよばれるフォーマットで保存されている。すべてのフラットファイルが無料でダウンロードできる。3拠点ではそれぞれ独自のサービスを付加しているが,保存されているデータはまったく同じである。(p.45「天然変性タンパク質」)

●X線小角散乱[small angle X-ray scattering (SAXS)]
溶液中の物質(タンパク質)にX線を照射し,散乱するX線のうち,角度が小さい散乱光を測定し,物質のナノメートルオーダーの構造を測定する方法。物質の慣性半径や見かけの分子量などの大まかな形状データを得ることができる。各ドメインの立体構造がそれぞれ原子分解能で明らかになっているタンパク質の場合には,X線小角散乱の手法で推定される大まかな全体構造と,各ドメインの原子分解能構造とを組み合わせて,全体の原子分解能構造を推定することが試みられている。(p.45「天然変性タンパク質」)
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