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今月のキーワード
マグネター/ 第一原理計算/ 磁力線凍結/システム生物学/ hartree / モット絶縁体/光モラセス/ 毛管長/ チップ上の研究室/粘性流体/ ナビエ‐ストークス方程式
●マグネター[magnetar]
中性子星は典型的には108 T程度の強磁場をもつが,一部のものは,さらにその1000 倍にも逹する強い磁場をもつと考えられている。これらはマグネターとよばれ,軟ガンマ線リピーター(SGR)や異常X線パルサー(AXP)の候補天体として広く受け入れられている。とくに巨大フレアとよばれる爆発現象では,太陽フレアとの類推から,磁気再結合が密接にかかわり,この強磁場のエネルギーが解放されていると考えられている。(p.4「第一原理からみた磁力線再結合」

●第一原理計算[ab initio / first-principles calculation]
広くは,物理学の基本原理や基礎方程式のみに基づいて,基本定数を除く経験的な知識をできるだけ使わずに行う計算の総称。とくに,原子・分子・固体等における電子系の記述を,分子軌道法やバンド理論などの手法を用いて量子力学的に行う場合に使われることが多い。各種の分子軌道法や,バンド計算でしばしば用いられる密度汎関数法においては,実際には場合に応じて経験的なパラメーターが導入されることも多いが,原子核と電子のみを与えて,それ以外の経験的あるいは実験的な知識や情報に頼らずに計算を遂行するアプローチも試みられている。(p.4「第一原理からみた磁力線再結合」,p.12「量子生物学の展開」)

●磁力線凍結[frozen-in flux / flux freezing]
理想化された磁気流体力学の枠組みでは,プラズマを電気伝導度が無限大の流体として扱う。この近似のもとでは,ある流体素片を貫く磁束は時間変化しないことが示され,したがって磁力線はプラズマに“ 凍結”されていると考えれば都合がよい。これはアルベーン(HannesAlfv始)によって提案された概念で,プラズマに特有の性質やその動力学を直観的に理解するさいの有用な道具となる。(p.4「第一原理からみた磁力線再結合」

●システム生物学[systems biology]
システム工学的な考え方や解析手法を用いて,生物や生命現象を1 つのシステムとして理解することを目的とする研究分野。たとえば,細胞内のタンパク質や核酸等のさまざまな構成物質間のシグナル伝達,代謝,遺伝子発現などのネットワーク構造の解明をめざす。タンパク質間,あるいはタンパク質‐リガンド分子間の相互作用を,反応速度定数などのパラメーターによってモデル化し,ネットワークの大規模な連立微分方程式を解くことで,系の定常状態や外部からの擾乱に対する応答を調べたりするのが代表的なアプローチである。(p.12「量子生物学の展開」)

●hartree(ハートリー)
原子単位系におけるエネルギーの単位で,ボーア半径だけ離れた2 つの素電荷の間に働く静電エネルギーの大きさに相当し,a.u. (atomic unit)ともよばれる。1 リュードベリエネルギー(Ry)の2 倍であり,約27.2 eVあるいは約4.36×10−18 Jとなる。また,化学反応などの実験値としてエネルギーを考える場合,1 hartreeが約627 kcal/mol あるいは約2625 kJ/mol に換算できることを用いるのが便利である。(p.12「量子生物学の展開」

●モット絶縁体[Mott insulator]
格子中の多数の粒子の系について,格子点間を粒子がホッピングするエネルギーに比べて,粒子間の斥力相互作用が大きい場合には,ホッピングが抑制されて,粒子数が確定した状態が実現する。これをモット絶縁体といい,非圧縮性や励起ギャップ等により特徴づけられる。格子ポテンシャルによるバンドに粒子がすべて詰まったために起こるバンド絶縁体とは異なる。(p.28「量子気体を顕微鏡でみる」

●光モラセス[optical molasses]
原子の共鳴周波数よりわずかに低い周波数をもったレーザー光を,互いに直交する3 軸の両方向,合計6 方向から原子に照射した場合には,ドップラー効果などにより,原子はどの向きに運動してもそれと逆の向きに速度に比例した力学的な力を受ける。これは,原子に対する粘性力であり,光により形成された“ 糖蜜(molasses)”とみなせるということから,光モラセスとよばれている。(p.28「量子気体を顕微鏡でみる」)

●毛管長[capillary length]
表面張力と重力の効果が拮抗する大きさの目安で,lc =√γ ̄/ ̄ρ ̄g ̄( lc は毛管長,γは表面張力,ρは密度,g は重力加速度)と定義される。毛管長より小さい液体には表面張力が支配的で,大きな液体では重力の影響が大きくなる。たとえば,超はっ水表面上の水滴の場合,毛管長( 約2.6 mm)より小さければ球になり,より大きな水滴は重力によってひしゃげて回転楕円体になる。(p.38「水上を歩く」)

●チップ上の研究室[lab-on-a-chip]
リソグラフィー技術によって,微小な装置を数mm 〜数cm程度の大きさのシリコンチップ上につくり,その上で種々の実験を行うデバイスを,象徴的にこうよぶ。とくに,流体を使う工学分野で盛んである。たとえば,複数の微小な流路( 溝)を使って反応液を混合したり,分離したりすることによって,化学分析や臨床検査をチップ上で行う装置などをさす。多数のチップを並べて,化学反応を同時に行うことにより,多量の生成物を得る研究も行われている。(p.38 「水上を歩く」)

●粘性流体[viscous fluid]
粘性とは,流体の粘っこさを表す尺度である。粘性は,流体の種類によって異なる値をとる。粘性のある流体を粘性流体という。超流動等の例外を除いて,実在する流体は,すべて粘性流体である。しかし,数学的なとり扱いを簡単にし,流れの特性を理解するため,実在流体から粘性を無視し,非粘性流体と仮定することがある。(p.42 「美しいサッカーを演出するパワーとスピン」)

●ナビエ‐ ストークス方程式[Navier-Stokes equations]
ナビエ‐ ストークス方程式は,ナビエ(Claude Louis Marie Henri Navier)とストークス(George Gabriel Stokes)によって導かれた運動量保存則である。別な言い方をすると,ニュートンの第2 法則F=ma( Fは力,mは質量,aは加速度)を流体に適用した式である。このさい,力F は圧力差による力,粘性力,重力,その他の外力の総和である。加速度aは,オイラー的な考え方で導出され,時間変化による速度変化率と位置変化による速度変化率(対流項)の和として表される。(p.42 「美しいサッカーを演出するパワーとスピン」)


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