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今月のキーワード
フェルミ気体/ フェッシュバッハ共鳴/完全流体/ AdS/CFT対応/ 重イオン衝突/イオントラップ/ 光時計/ セシウム原子泉/共鳴散乱/ 高輝度(第3 世代)放射光光源/色収差/ 共焦点レーザー顕微鏡/ 誘導放出
●フェルミ気体[Fermi gas]
フェルミ原子からなる気体。実現されている冷却原子としては,6Li,40K,171Ybなどがある。とくに6Liと40Kでは,フェッシュバッハ効果を使って散乱を負から正へと変化させることにより,超伝導に相当するBCS状態からフェルミオン2個がボソンの分子を形成し,それがボース‐アインシュタイン凝縮を起こした状態へと連続的に変化させることが実験で実現している。(p.4「ほとんど完全なフェルミ気体」)

●フェッシュバッハ共鳴[Feshbach resonance]
アルカリ原子は電子スピンと核スピンをもっており,2 個の原子の散乱状態と束縛状態では磁気モーメントが異なっているために,磁場を適当な値に調節すると,両者が共鳴し,散乱長がマイナス無限大からプラス無限大へと大きく変化する。これをフェッシュバッハ共鳴という。(p.4「ほとんど完全なフェルミ気体」

●完全流体[perfect fluid]
粘性がなく,圧縮できない流体を完全流体という。冷却原子気体では,フェルミ原子気体において,極低温で散乱長が発散するユニタリー極限で実現される気体が完全流体に近い状態であると考えられている。ただし,この場合は気体であるので圧縮できる。(p.4「ほとんど完全なフェルミ気体」)

●AdS/CFT対応[anti - de Sitter space / conformal field theory correspondence]
AdS/CFT対応とは,反ドジッター空間と共形場理論の対応のこと。1997 年に超弦理論の研究者であるマルダセナ( Juan Maldacena )によって発見されたもので,「負の宇宙定数をもつ時空である反ドジッター空間における重力理論( 超弦理論)と,共形対称性をもつゲージ理論が等価である」という対応関係である。共形対称性は,長さのスケールを変える変換で不変になる対称性と思えばよい。(p.10「ブラックホールから学ぶ,強結合粒子系の性質」

●重イオン衝突[relativistic heavy ion collisions]
陽子より重い原子核,とくに金や鉛のような,核子数200 程度の重い原子核どうしの衝突。加速器で高エネルギーに加速した重い原子核どうしを衝突させることで,通常原子核の数倍から数十倍のエネルギー密度の物質状態をつくり出し,その性質を研究することができる。RHICで行われた高エネルギー重イオン衝突では,核子内のクォークとグルーオンが解放された新物質相,クォーク‐グルーオンプラズマ(QGP)が生み出されていると考えられる。(p.17「重イオン衝突で完全液体をつくる」)

●イオントラップ[ion trap]
アルミニウムイオンなど,イオンを捕獲して精密計測を行う装置。軸対象の形状で,軸方向の閉じ込めに静電場,動径方向の閉じ込めに磁場を使うペニングトラップや,ラジオ波など交流電場で擬似ポテンシャルによる閉じ込めを行うポ−ルトラップなどがある。ペニングトラップは,電子と陽子など素粒子間の質量比の精密決定や電子の異常磁気能率の精密測定(g-2 実験)に利用される。ポ−ルトラップでは,トラップの中心に電場がゼロになる場所があり,単一イオンをその位置で捕獲し,ドップラー効果や外場の影響のない場所で分光することで,不確かさの小さい原子時計を実現できる。(p.27「日常的な距離や速さでみえる相対論的効果」)

●光時計[optical clock]
不確かさの小さい時計を追求するとき,マイクロ波(たとえば10 GHz)を使うより,光(たとえば500 THz)を使うほうが有利である。原子やイオンの量子準位への摂動の大きさが同程度ならキャリアー周波数の高いほうが精度を高くできるし,時計から発せられる振動数を測定するときも,同じ観測時間でより精密に測定できる。光コムによる光周波数測定が実現されたことで,光時計の研究が飛躍的に進んでいる。この記事にあるイオントラップや,東京大学の香取秀俊が提案した日本発の技術「光格子時計」を用いることで,秒の再定義をめざした,不確かさ10−18 レベルの研究開発が進んでいる。(p.27「日常的な距離や速さでみえる相対論的効果」

●セシウム原子泉[cesium fountain]
現在,秒の定義を実現している装置は,マイクロ波領域(9.2 GHz)で動いているセシウム原子泉周波数標準器である。重力のある地球上で観測時間を稼ぐには,十分冷却された原子集団を投げ上げて,頂上付近でゆっくり動く原子を観測すればよい。5 m/s で投げ上げると1 m程度の高さに上がり,約1 秒の間,投げ上げ速度以下の原子を用意できる。観測時間で制限される不確かさは1 Hz 程度になる。実際の原子泉時計では,たとえば106 個のセシウム原子を観測して,1 秒平均で10−13 の安定度を達成している。最終的な不確かさは,圧力シフト,黒体放射,共振器の位相シフトなどで制限されており,10−15 〜 10−16 程度が実現されている。(p.27「日常的な距離や速さでみえる相対論的効果」)

●共鳴散乱[resonant scattering]
一般に,共鳴散乱は入射線のエネルギーと散乱体の固有の励起エネルギーとが近い場合に生じる現象である。X線の共鳴散乱は原子内殻電子によるもので,入射X線のエネルギーが内殻電子の束縛エネルギーの近傍にある場合に生じる。共鳴散乱では,入射線は原子によって吸収され,原子は一時的に励起状態に励起されるが一定の時間の後に元の状態に戻り,このとき散乱線が発生する。共鳴散乱では,散乱振幅が著しく増大し,散乱波には位相のずれが生じる特性がある。このため,共鳴散乱には必ず実質的な吸収がともなう。(p.40「X線の共鳴磁気散乱でわかるもの」)

●高輝度(第3世代)放射光光源[high br i l l iant (3rd generat ion)synchrotron radiation sources]
電子貯蔵リングで発生する放射光は,貯蔵リングを周回する電子ビームが挿入電磁石によって軌道を曲げられるとき電子が加速されて生じるものであるが,電子ビームのサイズと広がりが小さい場合には,放射されるX線の輝度( 発光点の単位面積・単位立体角あたりから単位時間に放射される単位スペクトル幅あたりの光子数)が高くなる。初期の放射光光源を第2 世代放射光源といい,これに比べて後期につくられた,輝度が1000 倍程度高い放射光光源を第3 世代放射光光源という。(p.40「X線の共鳴磁気散乱でわかるもの」

●色収差[chromatic aberration]
レンズを通過する光は,それぞれの波長に依存して光の集まり方が異なるため,像にずれが生じる。たとえば,レンズの材料のガラスは屈折率に波長依存性があるため,同一の点から発した緑と赤の光は,レンズを通過した後に違った道筋を通る。したがって,緑と赤の光では,空間的に異なった位置にそれぞれ像を結んでしまう。この色収差を低減するために,複数枚のレンズを用いるなどの工夫がされている。(p.44「細胞生物学における超解像撮像技術」)

●共焦点レーザー顕微鏡[confocal laserscanning microscopy]
ピンホールを検出器の前に置くことによって,空間分解能を向上させたレーザー顕微鏡。このピンホールの位置は,対物レンズの焦点位置と光学的に“同じ”位置( 共焦点)にある。この共焦点では,焦点から出発した蛍光が,対物レンズや結像レンズを超えた後に再び1 点に集合する。通常の落射型蛍光顕微鏡では,励起光の通過する,焦点位置以外の全領域で蛍光が発生するため,結像に寄与しない焦点位置以外の成分も検出器に入ってしまう。そこで,共焦点ピンホールを置くことで,焦点以外で発生した蛍光や,試料中で散乱された蛍光などがカットされて検出器には到達せず,ぼけの少ない,シャープな断層撮像が可能になる。(p.44「細胞生物学における超解像撮像技術」

●誘導放出[stimulated emission]
励起状態にある原子や分子は,熱的過程でエネルギーを散逸したり,光子の形でエネルギーを放出して基底状態へ戻っていく。この後者が自然放出といわれる過程である。それに対して,励起状態にある原子や分子に外からある光が当たっていると,この外部からの光とちょうど同一の性質( 位相・周波数)の光子を放出して基底状態に戻る過程が生じる。これを誘導放出といい,レーザー発振の原理になっている。(p.44「細胞生物学における超解像撮像技術」)


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