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今月のキーワード
重力異常/ アイソスタシー/ 磁気抵抗効果/強磁性トンネル接合/ 相空間/ リウビルの定理/超音波電子フォーカシング/ ラーモア周波数/マッハ円錐/ 圧電性

●重力異常[gravity anomaly]
測地学と地球物理学においては,重力異常とは,重力の実測値と標準重力の差のことである。標準重力は地球では回転楕円体上での理論的な重力の値である。重力異常を表現するためには,測定点に対して地形や高度による影響を補正する必要があり,補正の仕方によりさまざまな重力異常が存在する。フリーエア異常は,測定点の高度の影響を補正した値から,標準重力を差し引いた値で,惑星探査機の軌道追跡データから直接に求められる数値である。ブーゲ重力異常は,高度ゼロから表面まで平均的な地殻密度の岩石が存在すると仮定して,その岩石による引力の影響を取り除いた値である。重力異常から,地下構造を推定することができる。地下に高密度の岩体があると,重力値は標準重力値よりも大きくなり,低密度の岩体がある場合は小さくなる。なお,天文学での重力異常は,ある宇宙の領域の重力の観測値と理論値の差をさす。(p.4「「かぐや」が明らかにした新しい月の世界」)

●アイソスタシー[isostasy]
密度の低い地殻が,密度が高く流動性のある上部マントルに浮かんでおり,地殻の荷重と地殻に働く浮力がつりあっているとする状態。地殻均衡ともよぶ。地殻の密度が一定の場合は,氷山のように,地形が高い部分では地殻・マントル境界は深くなる。地球では,アイソスタシーは,1000 km程度よりも長い波長ではよく成立している。一方,波長100 km程度よりも短波長の領域では,アイソスタシーはほとんど成立せず,フリーエア重力異常と地形との相関がよくなる。これは,「かぐや」で明らかにされた月の裏側の高地の状態に相当しており,地形による荷重が地殻やリソスフェア( 地殻・上部マントルを含めた固い領域)の弾性で支えられている。(p.4「「かぐや」が明らかにした新しい月の世界」

●磁気抵抗効果[magnetoresistance effect]
ある物質に磁界を印加したときに,電気抵抗が変化する現象。このような現象を見せる物質は多く存在するが,その物理的なメカニズムはいろいろである。最近のスピントロニクス研究では,巨大磁気抵抗(giant magneto-resistance,GMR)効果と,トンネル磁気抵抗(tunnelmagnetoresistance, TMR)効果が多く研究されている。この両者は低磁場で大きな抵抗変化を示すので,応用にも適した磁気抵抗効果といえる。また,Mn酸化物系でも大きな磁気抵抗効果が観測されており, こちらはCMR( colossalmagnetoresistance )効果とよばれている。(p.13「スピン偏極トンネリングのフロンティア」)

●強磁性トンネル接合[magnetic tunnel junction]
通常のトンネル接合は2 つの金属電極の間に非常に薄い( ナノメートル以下)絶縁体が挟まれた構造である。その金属電極を鉄などの強磁性体で構成したのが強磁性トンネル接合である。強磁性体なので2 枚の電極がそれぞれ磁化をもっていて,その相対的な方向が同じ向き(平行)のときと逆向き( 反平行)のときに大きくトンネル抵抗が異なるという,トンネル磁気抵抗効果を示す。最近のハードディスクの高密度化はこの強磁性トンネル接合の進化が大きく貢献している。また,強磁性半導体を電極に用いたものや,強磁性トンネル層を用いた研究も行われている。(p.13「スピン偏極トンネリングのフロンティア」)

●相空間[phase space]
系がとりうる状態の全体を相空間といい,系の状態は相空間の1 点として表される。たとえば,ばねでつながれた重りが鉛直線方向に運動する系の相空間は,重りの位置と速度を表す2 次元平面である。系の状態を表す変数は位置と速度に限らず,生態系のモデルであるロトカ‐ヴォルテラ系では,捕食者と被食者の個体数が相空間をなす。位相空間ともよばれるが,数学における位相空間(topologicalspace )と区別するために“ 相空間”とよばれることが多い。(p.21「相空間のもつれた物語」)

●リウビルの定理[Liouville's theorem]
相空間上のある領域内に初期点をくまなく置いて運動を追跡すると,一般には領域の形は時間とともに変化する。しかしある条件のもとでは,領域の体積は時間によらずに一定となる。これをリウビルの定理という。とくに,ハミルトン系では上記の条件がつねに満たされるため,時間発展によって体積は保存される。この体積保存性を使ってボルツマンが統計力学の基礎を構築するなど,応用上重要な定理である。(p.21「相空間のもつれた物語」

●超音波電子フォーカシング[ultrasound electronic focusing]
超音波診断装置では,パルス状の超音波を体内に送信し,体内の各部位からの反射波を受信した体内の断層像を得るものである。このさい,超音波をビーム状に狭めて焦点を形成し,その焦点からの反射波のみを受信するようにすることで,画像の空間分解能を高めている。実際には,超音波を送受信する振動素子を多数並べて,電気パルスを加えて超音波を発生させるが,並んだ振動素子に時間をずらしながら電圧を与えることで,合成された超音波が焦点を形成する電子フォーカシングが用いられる。(p.30「マルチウェーブ撮像と超解像画像」

●ラーモア周波数[Larmor frequency]
正の電荷をもつ原子核は自転( スピン)しているため,磁場を発生し小さな磁石と見なすことができる。通常その磁場はさまざまな方向を向いていて全体として打ち消されているが,外部から静磁場をかけると,個々のスピンは静磁場の方向に揃う。このとき,ちょうどコマのように歳差運動( 首振り運動)をするが,その歳差運動の角周波数ωは,静磁場の強度Bに比例し,ω=γBと表される。このωがラーモア周波数とよばれる。このγは組織により異なるので,周期的な磁場の変化を読みだして画像化するのが,MRI(磁気共鳴撮像法)である。(p.30「マルチウェーブ撮像と超解像画像」

●マッハ円錐[Mach cone]
飛行機の速度が音速を超えると,飛行機を頂点とし後方に円錐領域ができ,音はこのなかだけに伝わるようになり,またその円錐面は衝撃波の波面となって伝搬する。この円錐をマッハ円錐( マッハコーン)とよぶ。(p.30「マルチウェーブ撮像と超解像画像」)

●圧電性[piezoelectricity]
電気双極子を有する分子の結晶( 一般に強誘電体の受動素子で,ピエゾ素子とよばれる)に圧力を負荷すると,双極子の向きが一斉に変化し,力を負荷した両端に逆符号の表面電荷が現れて電圧が発生する性質。この現象を圧電効果とよび,マイクロフォンや電子ライターに応用されている。このプロセスは可逆的で,ピエゾ素子に電圧を加えると素子が変形して力を発生する。これを逆圧電効果とよび,ナノメートルスケールの位置決め装置や精密マニピュレーターに応用されている。(p.38「現実の細胞と仮想細胞をつないで調べる聴覚のしくみ」

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