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今月のキーワード
基礎物理定数/ 不確かさ/ 共分散/ 冷たい暗黒物質/ 相空間/ フラクタル/ 分子磁性体/ テクスチュアの波長
●基礎物理定数[fundamental physical constant]
自然現象を記述するための基本的な方程式に入ってくる定数のことを基礎物理定数とよぶ。代表的なものとして電荷素量e, プランク定数h, 微細構造定数α,リュードベリ定数R∞,万有引力定数Gなどがある。基礎物理定数のなかには他の基礎物理定数の組み合わせで表されるものもあり,科学技術データ委員会(CODATA)の基礎定数作業部会が定期的に推奨値として公表している基礎物理定数は約300 に及ぶ。基礎物理定数の多くは実験から求められるので不確かさをもつが,真空中の光速度c 0,真空の透磁率μ0,真空の誘電率ε0 のようにSI 単位の定義から導かれる不確かさのないものもある。さまざまな実験や理論から求められた基礎物理定数の値を整理,比較,検討し,お互いに整合しているかどうかを確かめることは,我々が自然現象の理解の手段として頼りにしているモデルの妥当性を確かめることにほかならず,基礎物理学の基盤のチェックとしてきわめて重要な意味がある。このような検討を経て決められた基礎物理定数の推奨値は,人間がつくったSI単位と自然のものさしとの換算係数ともいえる。(p.14「基礎物理定数」

●不確かさ[uncertainty]
測定結果の信頼性を表す指標のことを不確かさとよぶ。従来は,測定結果の質を表す用語として“ 誤差”や“ 精度”などが用いられてきたが,分野や国によってその意味するところや算出方法が異なっていたため,国際度量衡委員会(CIPM)主導で測定結果の信頼性の表現方法や算出方法が統一され,1993 年に国際標準化機構( ISO)など7つの国際機関の合意にもとづいて『計測における不確かさの表現ガイド』
(Guide to the Expression ofUncer tainty in Measurement)が刊行された。このガイドにおいて不確かさは「測定の結果に附随した合理的に測定量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ」として定義されている。誤差は真の値からのずれを示すものであるが,そもそも真の値は知り得ないので誤差を定量的に導くことはできない。不確かさは測定値からどの程度のばらつきの範囲内に真の値があるかを示すものであり,測定結果の信頼性を確率的に定量化したものである。(p.14「基礎物理定数」)

●共分散[covariance]
2 組の対応するデータXとYがあり,それぞれの期待値E(X),E(Y )からの偏差X−E(X),Y−E(Y)をとったときに,それらの積の期待値のことを共分散とよぶ。共分散はCov(X,Y )=E{[X−E(X)][Y−E(Y)]} として求められる。XとYをそれぞれ観測してそれらのばらつきを評価したときに,たとえばXが増加したときにYも増加する傾向にあれば共分散は正の値をとり,逆の関係があれば負の値をとる。共分散がゼロに近ければXとYとの間には関連性がないことを表す。基礎物理定数の推奨値を決めるために用いられるさまざまな実験データのことを入力データとよぶが,個々の入力データの不確かさだけでなく,入力データ相互の間の共分散も評価することでより正しい基礎物理定数の推奨値が得られる。(p.14「基礎物理定数」

●冷たい暗黒物質[cold dark matter]
暗黒物質とは,銀河や銀河団などの重力で支配される運動の研究や,宇宙論的観測を通じて宇宙全体に分布していることがはっきりしているにも関わらず,その正体が不明な物質をさす。光の発光・吸収がないため,黒いというより透明だと形容するのが本来正しい。原子や分子とは異なる物質であり,未知の素粒子だと考える傾向が強い。冷たいという言葉は,物質輻射均衡時に非相対論的( 速度が光速よりずっと遅い)であったことを意味する。そのため,その後銀河分布の構造形成等に重要な役割を果たしたと考えられている。(p.29「暗黒物質存在のじれったい兆候」)

●相空間[phase space]
力学系の状態はそれを表すいくつかの状態量で表される。たとえば温度T,密度ρ,圧力p の間の関係は状態方程式というが,(T, ρ , p)を直交座標軸とする3次元空間は“ 相空間”とよび,そこでは系の状態が1 点(T, ρ , p)で表される。1次元力学系では,状態が一般座標q,一般運動量pで表され,相空間(q, p)は位相空間ともよばれる。本文では,系の状態を時刻tの関数値v(t)とその微分v・(t)で表し,相空間(v, v・)を構成する。状態点は一般に,時刻t とともに相空間のなかを移動する。(p.37「メイドインジャパン物理用語物性編上田アトラクター」)

●フラクタル[fractal]
非整数(fraction)の次元を有する図形を,1975年のマンデルブロ(B. B. Madelbrot)の提唱以来,フラクタルとよぶようになった。典型的な例がカントール集合である。それは有限長さの線分を3等分し,その3 つの線分の真ん中の線分をとり除き,残った2 線分の各々をさらに3 等分して,同じ操作を無限にくり返すことでつくられる集合である。その次元は1でも0 でもなく,0.6309 ( = log 2 / log 3 )である。上田アトラクターの場合も,カントール集合と同等の構造を有することが示される。(p.37「メイドインジャパン物理用語物性編上田アトラクター」)

●分子磁性体[molecule-based magnet]
金属錯体や有機ラジカルなど,有機分子を構成要素として含む磁性体。スピン間の相互作用を考慮したうえで,スピン源である金属イオンや配位子を選択・設計することで,従来の磁性材料では達成されていない多様な磁気特性や機能性を実現できると期待されている。実際,光照射によって磁気特性を制御できる光磁性体や,トンネル効果によって磁化反転が生じる単分子磁石などが開発されている。(p.38「原子のジャングルジムと負の熱膨張係数」)

●テクスチュアの波長[texture wavelength]
道路の舗装路面などの凹凸の程度を表す場合,単位長(1 m)あたりの凹凸のくり返しの数を空間周波数といい,その逆数(凹凸の1 回のくり返しの長さ)をテクスチュアの波長という。(p.42「道路騒音の原因は?」)

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