index 2010index 8月号目次 8月号目次

今月のキーワード
クラインパラドックス/ 金属化/ 歳差運動/共鳴周波数/ βシート構造/ ペプチドホルモン/セントラルドグマ/ フェルミ加速
●クラインパラドックス[Klein paradox]
ディラック方程式で記述される相対論的電子が急峻なポテンシャル障壁に入射したときの透過率は,障壁が高くなるほど大きくなり,1 に近づく。障壁内で陽電子が生成・伝搬することに起因するこの現象は,通常のシュレーディンガー方程式に従う非相対論的粒子で見られるトンネル現象( 障壁が高くなるほど透過率は指数関数的に減少する)とは対照的であり,クラインパラドックスとよばれる。高エネルギー物理の実験では検証困難とされているが,電子がディラック方程式で記述されるグラフェンでは観測が可能とされ,実際に関連現象の観測が報告されている(A.F. Young and P. Kim: Nat. Phys. 5, 222 (2009))。(p.4「グラフェンを超える」)

●金属化[metallic transition]
一般に,物質中で電子は各原子のまわりの軌道に束縛されているが,金属中では結晶内を自由に動き回ることができる自由電子が存在する。物質を超高圧まで加圧していくと,原子どうしの距離が押し縮められて各原子のまわりの電子軌道が重なり合い,電子が自由に動き回れるようになって金属化する。シリコンのような半導体では十数万気圧,キセノンのような希ガスでも約120 万気圧で金属化することが実験で確かめられており,水素も超高圧下では金属化すると理論的に予測されている。(p.10「超高圧下の惑星.. 極限条件下の物質」

●歳差運動[precession]
原子核は,コマや地球のように,傾いた軸のまわりで自転しているととらえることができる。この自転軸が,コマのように,円を描く摺子木( すりこぎ)運動を歳差運動という。この歳差運動の周波数は,上述の共鳴周波数( あるいは,本文中で“NMR周波数”とも記述されている)と一致する。本文中の該当部分では,静磁場( z 軸方向)に対して磁化は横方向(x-y平面内)を向いているので,磁化は共鳴周波数でx - y 平面内を回転運動することになる。(p.26「発展し続ける固体NMRの世界」)

●共鳴周波数[resonance frequency]
たとえば,ある音叉や釣鐘を叩くと,特定の周波数の音が聞こえる。この周波数を共鳴周波数という。原子核も固有の周波数を有している。核磁気共鳴(NMR)では,その周波数を測定する。実際には,原子核が孤立して存在していることはなく,原子核のまわりには電子が存在する。そのため,共鳴周波数は原子核固有の周波数からずれる。まわりの電子状態の違いに応じての共鳴周波数のわずかなずれ( シフト)を化学シフトという。さらには,近傍にある別の原子核の影響も受ける。これらを利用して,観測している原子核の近くのさまざまな情報を,NMR測定から得ることができる。(p.26「発展し続ける固体NMRの世界」)

●βシート構造[β sheet structure]
αヘリックスとともに,タンパク質の立体構造の形成に必要な2 次構造の1 つ。βシート構造では,となり合うポリペプチド間で,ペプチド結合内のN−Hと,もう一方のペプチド結合のC=Oが水素結合を形成し,全体としては複数のポリペプチドが平面( シート)構造を形成する。(p.36「ペプチドホルモンは“ 有害”な状態で貯蔵される?」)

●ペプチドホルモン[peptide hormone]
ホルモンとは,生体内におけるさまざまな調節作用を司る生理活性物質の総称である。そのなかでもペプチドからなるホルモンのことをペプチドホルモンという。よく知られたペプチドホルモンにはインスリン,成長ホルモン,エンドルフィンなどがある。(p.36「ペプチドホルモンは“有害”な状態で貯蔵される?」

●セントラルドグマ[central dogma]
セントラルドグマとは,生命における遺伝情報が“DNA→RNA→タンパク質”という方向性をもった流れで伝達されていくという考え方。最終生成物であるタンパク質の立体構造は,基本的にはアミノ酸配列にだけ依存しているので,アミノ酸配列をコードするDNA配列さえ決まればタンパク質の立体構造,ひいては生物学的な機能も決定する。(p.36「ペプチドホルモンは“ 有害”な状態で貯蔵される?」)

●フェルミ加速[Fermi acceleration]
多数の重い球が動き回っているところに軽い球を入れると,軽い球は衝突をくり返して徐々にエネルギーを得る。これが統計加速の原理であり,スペクトルがエネルギーのべき関数になるのが特徴である。荷電粒子(軽い球)が,プラズマ雲に超新星爆発で吹き飛ばされた速度の速いプラズマ( 重い球)が衝突して生じる衝撃波面を行き来する間に加速される現象をフェルミ加速という。ひとつのプラズマ雲内での加速に比べ,加速効率がよいのが特徴である。(p.41「ガンマ線望遠鏡が明かす宇宙線の起源」)

index 2010index 8月号目次 8月号目次