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今月のキーワード
プラズモン/ 対称性由来選択律/ ガウス分布・ポアソン分布/ レイノルズ数/ ゴム弾性/ 疎水性相互作用/ スリップリンクモデル/ 弾性不安定性/ クローン禁止原理
●プラズモン[plasmon]
古典的モデルの金属は原子核格子と自由電子から構成されている。電磁場である光が金属に照射されたさい,周波数が低い場合には反射され,ある一定周波数の場合には自由電子の集団的振動であるプラズモンが励起され,吸収現象が起こる。一般の金属においては,プラズモン共鳴周波数は紫外線に対応することから,可視光をよく反射することになるが,金や銅においては可視光領域に対応し,これら金属特有の色の原因となる。(p.15「表面増強ラマン散乱で分子分光」)

●対称性由来選択律[symmetry selection rule]
光が照射された分子においては,光エネルギーによって,電子状態,振動状態,回転状態のエネルギー状態が変化する。許容される準位間の遷移は分子の対称性に依存し,一例としてはラマン散乱と赤外吸収における選択律がよく知られている。反転対称性のある分子において,ラマン活性がある場合には基準振動は赤外活性がなく,逆も成り立つ。ルールに従わない遷移は禁制遷移とよばれる。(p.15「表面増強ラマン散乱で分子分光」)

●ガウス分布・ポアソン分布[Gaussian distribution, Poissondistribution]
つりがね状のガウス分布は正規分布としても知られる。正規分布に従う自然・社会現象は多岐にわたり,熱拡散,レーザー光の強度分布などが挙げられる。ポアソン分布は,単位時間あたりの平均発生回数が知られている離散現象において,所定時間内にn回発生する確率を表す。また,時間以外にも距離,面積等であっても構わず,細胞表面に存在する受容体の数もポアソン分布で表すことができる。(p.15「表面増強ラマン散乱で分子分光」)

●レイノルズ数[Reynolds number]
流体の慣性力と粘性力の比を示すパラメーター。流体のもっとも大切なパラメーターなので相似則として使われるが,長さが関係するので,多くの場合,実験でレイノルズの相似則を満足させることは難しい。あるレイノルズ数で流れは層流から乱流に遷移するので,この異なった特性を持った2 種の流れを制御することは工学では重要である。ほとんどのヨットの船首部分には層流の領域があるが,全体的には乱流に包まれている。(p.31「ヨットの物理」)

●ゴム弾性[rubber elasticity]
架橋ゴムが示す弾性のこと。空気ばねと同様にエントロピー弾性の代表例としてよく知られている。エントロピー弾性の共通の性質として,弾性率が絶対温度に比例し,また断熱的に伸長すると発熱する。ガラス転移温度とよばれる温度以上でアモルファス状態にある高分子は,固体中でも活発に分子が運動している。これは,分子が繋がっている点を除けば気体の分子運動とまったく同様であり,高分子のエントロピーのそもそもの原因になっている。(p.40「結合点が自在に動く高分子ネットワークの物理学」)

●疎水性相互作用[hydrophobic interaction]
極性が高く水に対する親和性が低い分子( 疎水性分子)どうしは水中で凝集して,水との接触面積をできるだけ小さくしようとする。これを疎水性相互作用という。疎水性分子の周りの水分子は水素結合によりある種の構造を形成しており,その結果,水分子の自由度が低下してエントロピーが減少する。その減少分をできるだけ小さくしようとして,接触面積を減らすために疎水性分子の凝集が起こるのである。したがって,疎水性相互作用はエントロピー由来と考えられている。(p.40「結合点が自在に動く高分子ネットワークの物理学」)

●スリップリンクモデル[slip-link model]
高分子物理学の中心的な研究課題の1 つである高分子のからみ合いを記述する理論モデル。自由に動く仮想的な環状リンクを用いて高分子のからみ合いを表現しており,本文中で紹介した環動高分子はスリップリンクモデルを具現化した材料ともいわれている。エドワーズ(Samuel Edwards)や土井正男らによって提案された。高分子のからみ合い効果を説明する理論モデルとしては, ほかにド・ジェンヌ(Pierre‐Gilles de Gennes)らによるチューブモデルもよく知られている。(p.40「結合点が自在に動く高分子ネットワークの物理学」)

●弾性不安定性[elastic instability]
ゴムのようにS字型の応力伸長特性を示す物質や材料で風船をつくると,風船の中の圧力と大きさの関係が,トンネルダイオードの負性抵抗と類似の曲線を描く。その結果,ゴム風船などでは,同じ圧力なのに大きさが異なる2つの状態が共存して相分離が起こる。たとえば細長い風船に強い息を吹き込むと,中の圧力は均一なのに一部だけ膨らんだ状態ができる。このような負の弾性率によって起こる相分離現象は弾性不安定性とよばれており,動脈瘤や泡の生成などの原因にもなっている。(p.40「結合点が自在に動く高分子ネットワークの物理学」)

●クローン禁止原理[no-cloning theorem]
どのような状態であるかまったく情報がない量子力学的状態( 未知量子状態とよばれる)から,その未知量子状態と完全に同じ状態のクローンをつくることができない,という量子力学の基本原理。1982 年にウーターズ(W. K. Wooters)とズレック(W. H. Zurek),およびディークス(D.Dieks)によって示された。この原理は,未知係数をもつ重ね合わせ状態で記述される,クローン不可能な量子情報と,重ね合わせの存在しない古典力学的な状態で記述される,クローン可能な古典情報との本質的な相違を示すものであり,量子力学の不確定性原理とも関連している。量子鍵配送などの量子暗号においては,クローン禁止原理はその安全性の礎となっている。(p.48「量子力学を用いた因数分解に関する興味深い事実」)


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