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今月のキーワード
中間質量ブラックホール/ ヴェンツェル‐ クラマース‐ブリルアン近似(WKB近似) / ボルン‐オッペンハイマー近似(ボルン近似) / 位相差(光学)顕微鏡/ フラウンホーファー回折/ 微分干渉法/ 電子線加工法/ アハラノフ‐ボーム(AB)効果/星周円盤/ RSA暗号/ ショアのアルゴリズム
●中間質量ブラックホール[Intermediate-mass black holes]
通常の大質量星の進化の最期に形成される「恒星質量ブラックホール」と,銀河の中心に存在する「巨大質量ブラックホール」との中間の質量をもつブラックホール。広義には,太陽の数十倍〜 10 万倍程度の質量をもつものをさす。巨大質量ブラックホールは,主に周囲のガスからの質量降着によって成長したと考えられているが,初期に中間質量ブラックホールの時代を経たはずであり,その形成過程を理解するうえで鍵となる天体である。(p.4「ブラックホールとその環境」)

●ヴェンツェル- クラマース- ブリルアン近似(WKB近似)
[Wentzel-Kramers-Brillouinapproximation]
物質を通過する電子波はシュレーディンガー方程式により記述されるが,一般解は難しい。電子顕微鏡の場合には原子核周囲で小角散乱される弾性散乱電子のみが問題であり,静電場の影響で波長がわずかに短くかつ緩やかに変化するので,複素散乱振幅の近似式から局所的な波動方程式が求められる。電子波の波長はフレネル回折のπ/2 の位相変化に試料と散乱角度に依存した位相変化が加わり,位相変化は静電ポテンシャルの積分の形で与えられる。これがWKB近似である。さらに簡略化して散乱角に依存する位相変化をゼロとするのがボルン近似である。(p.22「生体ナノ構造を解く低温電子顕微鏡法」)

●ボルン-オッペンハイマー近似(ボルン近似)[Born-Oppenheimer approximation]
電子源から照射された電子線は試料中の原子核周囲の静電場の影響で向きを変え,それが電子レンズにより再び集められて像ができるが,電子顕微鏡では開口数が小さく,ごく小角範囲の散乱電子のみが結像にかかわる。照射電子線のエネルギーが原子のポテンシャルエネルギーに比べて十分に大きい場合には,散乱を受けてもそのエネルギーは変わらず位相変調のみを起こすと考え,物質中の電子波を,入射電子波とπ/2 位相シフトしたわずかな振幅の散乱波との和として置き換えることができる。それをボルン近似( 弱位相物体近似)とよぶ。(p.22「生体ナノ構造を解く低温電子顕微鏡法」)

●位相差(光学)顕微鏡[Phase contrast microscope]
生物組織や細胞はタンパク質や脂質の集団であるが,いずれも透明で,背景の水とのコントラストが付かないため,光学顕微鏡でそれらを可視化することはできない。ゼルニケは,それらの構成成分と背景の水との屈折率の違い,つまり通過する光の速度の違いを利用し,それらを通過した光の位相のずれをコントラストに変換するための1/4位相板を光路に挿入することで光の位相の違いを強度に変換してコントラストを形成することに成功した。これが位相差顕微鏡である。(p.22「生体ナノ構造を解く低温電子顕微鏡法」)

●フラウンホーファー回折[Fraunhofer diffraction]
平行な入射光を物体に当て,その回折光を十分に遠方から見たとき,散乱物体の形状に応じて光の進行方向の分布が変わるが,それを凸レンズで集光すれば後焦点面における強度分布のパターンとして見ることができる。電子線でも同様で,これをフラウンホーファー回折パターンとよぶ。そこでは,物体形状のフーリエ変換の空間周波数が回折角度に対応するので,ある角度以上に散乱された電子を対物絞りで遮断して観察面に収束する電子の量を減らし,散乱を受けなかった電子線との輝度差により「散乱コントラスト」が生じる。染色された一般の生物試料ではこれがコントラストの主体となる。(p.22「生体ナノ構造を解く低温電子顕微鏡法」)

●微分干渉法[Differential interference method]
1950 年代にノマルスキー(G. Nomarski)により発明された位相差法で,入射光束を異なる偏光成分に2分し,それを0.2μm程度ずらして試料通過させ,再び同一方向の偏光として重ね合わせる。試料通過時の2分した光の間に生じる位相差が位相コントラストを与える。(p.30「ナノバイオロジーを切り拓く位相差電子顕微鏡」)

●電子線加工法[Electron beam processing]
強力電子線ビームを照射し,薄い材料に穴開け加工を行う手法。現在では,電子線ビームはイオンビームに変えられ,はるかに高効率の加工法に置き換えられている(フォーカスイオンビーム装置)。(p.30「ナノバイオロジーを切り拓く位相差電子顕微鏡」)

●アハラノフ-ボーム(AB)効果[Aharonov-Bohm effect]
1959 年アハラノフとボームに予言された電磁気効果で電場や磁場がなくてもベクトルポテンシャルがあれば電子線は影響を受ける効果を指す。1980 年代日立製作所の外村らにより,磁束漏れのない微小ドーナツ型磁石を用いて,ドーナツ環内外の電子線位相のズレとして完全証明された。(p.30「ナノバイオロジーを切り拓く位相差電子顕微鏡」)

●星周円盤[Circumstellar disk]
星の周囲を回転しつつ取り囲んでいる円盤のこと。ガスや塵からできている。誕生して間もない天体にはこの星周円盤を伴っている場合が多く,円盤から放射される赤外線が星の光に対する赤外超過成分として観測される。星が誕生する過程で周囲の物質がこの円盤を経由して星に降りそそいでいた(降着円盤)と考えられ,降着が終わった後は惑星系が誕生する場(原始惑星系円盤)となる場合もある。さらに彗星や微惑星等の天体から放出されたダストが起源であると考えられる円盤(デブリ円盤)をもつ星も存在する。(p.43「地球型惑星の形成領域における水蒸気」)

●RSA暗号[RSA cryptosystem]
公開鍵暗号とよばれるタイプの暗号である。公開鍵暗号では,公開鍵を用いて誰でも暗号化を行うことはできるが,公開鍵から復号化を行う鍵( 秘密鍵とよばれる)を求めることが難しいために,秘密鍵がなければ復号化ができない。公開鍵暗号においては,ある演算(暗号化)の実行は簡単にできても,その逆演算(復号化)の実行が難しいというような「一方向性」が必要となる。RSA暗号では,巨大な数の素因数分解を行うことは,その逆演算である素数の掛け算を行うよりも計算量的に難しい(計算に指数関数的な時間がかかる),という一方向性を用いている。(p.55「量子力学と因数分解の関連とは?」

●ショアのアルゴリズム[Shor's algorithm]
巨大な数Nの素因数分解を求めるアルゴリズムのなかでもっとも時間がかかる部分である,ランダムな整数a に対するNを法としたx の関数の周期を求める計算を,量子力学の重ね合わせ原理や測定原理を利用した量子コンピューターを用いることで効率よく行う量子アルゴリズムである。この量子アルゴリズムでは,フーリエ解析を行うユニタリ変換のサブルーチンを用いる点と,測定によって離散的な測定値を得る点が鍵となる。アルゴリズムの詳細については,次号のコラムを参照のこと。(p.55「量子力学と因数分解の関連とは?」)


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