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今月のキーワード
フィックの法則 / MiniBooNE / ニュートリノ振動 / ステライルニュートリノ / チャネリング / 体積反射 / コリメーション / 励起子 / 励起子分子
●フィックの法則[Fick's law]
拡散に関する基本法則である。等温系においてx方向に成分iの濃度ciに勾配があるとき,単位面積,単位時間あたりの拡散流束Jiがciの勾配(濃度勾配)に比例し,次式で与えられる。


これをフィックの第1法則といい,比例係数Diを拡散係数という。また,ciの時間変化は


で与えられる。これをフィックの第2法則という。これらの式を与えられた境界条件と初期条件のもとで解き,濃度分布の時間変化を計算することができる。(p.4「地下水の物理」)

●MiniBooNE
MiniBooNEはフェルミ研究所のBooster加速器(8GeV陽子加速器,Tevatron などのための前段加速器)を使った実験である。実験の目的は陽子ビームで生成されるミューオンニュートリノを1280本の光電子増倍管を配し800トンの鉱油を満たした測定器に打ち込み,約500mの飛行で電子ニュートリノの増加を対策する。もし増加が測定されれば,以前のLSNDの結果を検証し,1eV2程度の質量の2乗差をもつニュートリノが存在することを立証することになる。(p.35「以前から問題になっていた近距離でのニュートリノ振動が否定された」)

●ニュートリノ振動[neutrino oscillation]
ニュートリノはπ中間子の崩壊や原子核のベータ崩壊など,弱い相互作用によって電子,μ粒子,τ粒子と対になって生成され,それぞれ物質と反応して,電子,μ粒子,τ粒子を生成する。これはニュートリノをνe,νμ,ντの3種類に分類する方法の1つである。一方,ニュートリノが質量をもつと,その質量値によって分類することもできる。一般的には上記の2つの分類にはズレがある。たとえばνeの状態は質量の固有状態ではなく,異なった質量をもつ状態の重ね合わせである。いま,ニュートリノ(たとえばνe)が生成され飛行すると異なった質量成分は,与えられたエネルギーの下,異なった位相をもつ。したがって飛行するにつれて生成時とは異なった状態になる。すなわち生成直後に物質と反応すると電子を生成するはずのものが飛行数につれて異なった反応,たとえばある確率でμ粒子を生成する。この現象をニュートリノ振動という。ニュートリノ振動の存在は,ニュートリノに複数の異なった質量が存在することと質量での分類と反応による分類が直交しないことと等価である。(p.35「以前から問題になっていた近距離でのニュートリノ振動が否定された」)

●ステライルニュートリノ[sterile neutrino]
ニュートリノには,νe,νμ,ντの3種類あることが実験的に確かめられている。それぞれ物質と反応して,電子,μ粒子,τ粒子を生成する。CERNにおけるLEPなどの電子‐陽電子衝突実験では,中性の弱い相互作用を媒介するZ粒子の崩壊が精度よく測定された。これによるとZが崩壊してできるニュートリノ‐反ニュートリノ対の総計は3に非常に近い値であった。したがって弱い相互作用をもつニュートリノは,νe,νμ,ντの3種類ですべてであると考えられる。さらにニュートリノが3種類とするとその質量の固有状態(ある決まった質量をもつ状態)は3つで,3つの質量値が存在する。ここではm1,m2,m3とする。したがって3つのニュートリノの質量の2乗の差(ニュートリノ振動で測られるのは2乗の差である)は,(m12−m22),(m22−m32),(m32−m12)であり,この3つの差の合計は0である。近年のニュートリノ研究で,ニュートリノ質量の2乗差には約10−4eV2(太陽,原子炉からのニュートリノ研究),約10−3eV2 (大気,加速器からのニュートリノ研究)が存在することが確立している。もしLSNDの測定がニュートリノ振動だとすると1eV2程度の質量の2乗差が存在することになり,これでは質量の2乗差の総計を0にはできない。したがって4種類以上のニュートリノ質量状態が必要になる。ただし上記の電子‐陽電子衝突実験などから,弱い相互作用をもつニュートリノは3種類であるので,第4以降のニュートリノがあれば弱い相互作用をもたない。これをステライル(見えない)ニュートリノという。(p.35「以前から問題になっていた近距離でのニュートリノ振動が否定された」)

●チャネリング[channeling]
物質中で原子が規則正しく並んでいるものを,結晶(クリスタル=crystal)といい,シリコン,ダイヤモンドなど,多くの物質が結晶構造をもっている。結晶中では,原子が直線上に並んだ結晶軸や,面状にならんだ結晶面を構成している。結晶面や軸にそって電荷をもった粒子をいれると,その粒子は面と面の間の溝(すなわちチャネル)や軸のまわりを原子にぶつかることなく進むことがある。この現象チャネリングという。(p.40「結晶によるビーム操作」)

●体積反射[volume reflection]
通常,結晶における粒子のチャネリングは,粒子が結晶面に対して小さな角度で入ったときにのみ起こる。ところが,湾曲した結晶面では,大きな角度の場合でも,結晶面の影響をうけて粒子が反射されることがある。この効果は結晶面だけでなく,湾曲した結晶全体でおこることから,体積反射という名称がつけられた。詳細は本文の解説を参照のこと。(p.40「結晶によるビーム操作」)

●コリメーション[collimation]
一般にものの流れを平行にすることをコリメーションという。光学では光軸を一致させることやレンズをつかって平行光をつくることを指すが,加速器では,金属などによってビーム周辺の不要部分(ハロー)を削り取り,ビームの中心部分だけを取り出すことを指す。こうすることによって,ハローが加速器中の電磁石や,実験装置に飛び込んで加速器の運転や実験の邪魔をすることを防ぐ。(p.40「結晶によるビーム操作」)

●励起子[exciton]
半導体や絶縁体を光励起すると,価電子帯中の電子が伝導帯に励起され,価電子帯中に正孔(電子の抜けた状態)が形成される。励起子は,両者がクーロン引力で束縛された状態を指し,陽子に電子がクーロン引力で束縛された水素原子に類似点を多く見いだすことができる。励起子は光を発して消滅し,半導体や絶縁体のバンド間遷移のエネルギー近傍の吸収や発光の光スペクトルを支配する。(p.43「半導体ナノコロイドで量子ドットレーザーをつくるには」)

●励起子分子[biexciton またはexcitonic molecule]
水素原子が2つ束縛されて水素分子が形成されるように励起子分子は励起子が2つ束縛された状態。(p.43「半導体ナノコロイドで量子ドットレーザーをつくるには」)


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