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今月のキーワード
キャリヤーエンベロープ位相 / コンプトン散乱 / ラムシフト / ハートリー‐フォック法 / バンド構造
●キャリヤーエンベロープ位相[carrier-envelope phase]
光パルスはパルス状の電場振動である。光パルス内の電場振動のピークをたどったエンベロープ(飽絡線)に対する電場振動そのもののタイミング(たとえばエンベロープの極大値で電場はゼロか極大か,など)をキャリヤーエンベロープ位相とよぶ。(p.69「位相ロックフェムト秒レーザーによる化学反応制御」)

●コンプトン散乱[Compton scattering]
1923年にコンプトンは,グラファイトにX線を入射したところ,散乱X線の中に入射X線の波長より長い波長のものが含まれることを発見した(コンプトン効果)。コンプトンはこの効果を,電磁波が波動性ももつための現象だと考え,X線光子と原子内電子の弾性衝突として説明した。そこで,光子と自由電子の衝突をコンプトン散乱という。コンプトン散乱の断面積の理論式はクライン‐仁科の公式である。(p.82「朝永生誕100周年に想う」)

●ラムシフト[Lamb shift]
量子力学によれば,水素原子のエネルギー準位は主量子数nだけで決まるが,相対論的効果で生じるスピン‐軌道相互作用によって,主量子数は同じだが,全角運動量jの異なる準位は分離し,微細構造が生じる。たとえば,n=2の2S,2P状態は,j=1/2と3/2の2つのグループ(2S1/2,2P1/2)と(2S3/2,2P3/2)に分離する。さらに,1947年ラムとレザフォードは超短波の磁気共鳴で,2S1/2と2P1/2の振動数間に1060Mcの差があることを発見した。量子電磁気学の摂動の高次効果によって生じるこのずれをラムシフトという。(p.82「朝永生誕100周年に想う」)

●ハートリー‐フォック法[Hartree-Fock method]
電子がフェルミ粒子であることを考慮して,クーロン相互作用する複数の電子の波動関数やエネルギーを求めるための,もっとも簡単な近似計算法。全波動関数は1電子軌道(1電子座標の関数)のスレーター行列式で書かれ,その1電子軌道はある種の平均場方程式の解として得られる。同じ向きのスピンをもった2電子は空間的に同じ状態を占めることができないという,パウリの排他率が自然に取り入れられる一方,異なるスピンをもつ電子がクーロン斥力で避け合う効果(電子相関効果)が完全に無視されるという欠点がある。(p.94「計算物理 第10回(物性編)固体の電子をいかに扱うか」)

●バンド構造[band structure, electronic band structure]
結晶中で波としてふるまう1電子の状態(軌道)は,波数ベクトルkで分類することができる。電子の軌道エネルギーと波数ベクトルkとの関係を示した曲線を,バンド構造という。結晶格子がつくる周期ポテンシャルの散乱により,どのような波数の波も許されないエネルギー領域(バンドギャップ)が生じ,これによってエネルギー分散曲線はいくつかの帯状(バンド状)の領域に分割される。金属の最高占有準位はバンド中にあるので,わずかなエネルギーで電子分布が変化し,たとえば電気伝導性を示すのに対し,バンド上端まで電子が占有されている絶縁体の電子励起には,バンドギャップを越える大きなエネルギーが必要である。このようにバンド構造は物質の電子物性を理解する上で有用である。(p.94「計算物理 第10回(物性編)固体の電子をいかに扱うか」)