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今月のキーワード
ナヴィエ‐ストークス方程式 / 揚力/ 経験主義 / 規約主義 / 隠れた変数解釈 / ラフニング転移
●ナヴィエ‐ストークス方程式
[Navier-Stokes equation]
流体の運動を速度場,圧力場,密度場等で表現するとき,それらの時間発展は偏微分方程式で記述される。そのうちで特に粘性流体(内部摩擦のある散逸性流体)を支配するものとしてこの方程式が知られている。最初にナヴィエ(1822),後にストークス(1845)によって独立に導かれた。この方程式は,流体運動が慣性,圧力勾配,粘性(および外力)の効果の間のバランスで時間発展することを表現している。乱流状態もこの式でよく記述できることが明らかにされている。(p.4「境界層理論がもたらした流体力学の革命」)

●揚力[lift]
20世紀初頭の航空機の発明とともに揚力の理論が発展させられた。航空機が空中で浮揚するためには,重力に抗する上向きの力が必要であるが,それは翼のまわりの気流から得られる。平たくて横に長い平面状の翼形はそのような機能をもつ。流れに平行(長軸に垂直)な断面の先端は丸みをおび,後端は尖った形が特徴である。翼面をほぼ水平にして,小さい迎角(先端がわずかに上向き)の姿勢で翼が水平に運動すると,上面の圧力が減少し,下面の圧力が増加する。その結果として翼が気流から受ける上向きの力が揚力である。揚力は,気流速度の2乗および翼面積に比例するので,大面積の翼が高速で運動すると,大きな揚力が得られる。実際,ジャンボジェット機もそれで浮揚させることができる。(p.4「境界層理論がもたらした流体力学の革命」)

●経験主義[empiricism]
合理主義(rationalism)に対する用語。理性を認識の原理にすえるデカルト合理主義に対して,認識の起源を経験(感覚的印象)にもとめるロックやヒュームによるイギリス経験論に発する。この考えはフランス啓蒙主義に取り入れられ,さらにコントやマッハの実証主義,ジェームズやデューイのプラグマティズムへと受け継がれる。今日の物理学をはじめとする自然科学一般は,経験主義に支えられているとみなすことができる。(p.14「科学哲学者としてのアインシュタイン」)

●規約主義[conventionalism]
約束主義,便宜主義ともよばれる。ポアンカレが,幾何学における公理や定義を単なる約束事にすぎないとみなしたことに起源をもつ考えであり,科学理論や法則も同じく,そのように約束すればこの世界を巧みに描写できるので導入されたにすぎないとみなすものである。一方,マッハやデュエムは,物理法則や理論はより簡便な形で思惟経済的に表現されるべきだと考えた。これも一種の規約主義とみなされる。(p.14「科学哲学者としてのアインシュタイン」)

●隠れた変数解釈[hidden-variables interpretation]
量子力学の波動関数は,振幅の絶対値2乗が粒子の存在確率を表すとされている。古典統計力学の立場からは,確率は統計集団の存在を前提とし,統計集団の要素は力学変数によって記述されるはずである。量子力学の波動関数にもこの考えが適用できて,統計集団の要素は何らかの隠れた変数によって記述されるのではないかという考え。ボームによって展開されたが,ベルの定理に照らした実験によって現在では否定的に評価されている。(p.14「科学哲学者としてのアインシュタイン」)

●ラフニング転移[roughening transitions]
結晶の平衡形は表面自由エネルギーが最小となるように決まる。ある特定の面(低指数面であることが多い)の自由エネルギーが他の方位と比べて特に小さいとき,その面が結晶表面に大きく現れたほうが全体として自由エネルギーは小さくなる。このようにして結晶表面に現れた平らな面のことをファセットとよぶ。ラフニング転移とは結晶平衡形の相転移であり,ファセットがラフニング転移温度以上で熱ゆらぎによって消失し,原子レベルで凸凹した(荒れたとか,ラフなとかいう)面が現れることをいう。(p.52「ヘリウム負結晶の運動」)