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今月のキーワード
重力波 / 座標特異性 / 南部-ゴールドストーンボソン / カイラルラグランジアン / レプリカ法
●重力波 [gravitational wave]
一般相対性理論では,重力場は時空構造のひずみと同一視される。たとえば,2つの物体の間の引力は,一方の物体の生み出した時空のひずみが他方の物体に作用することにより生じる。この時空ひずみの構造は物体が互いに静止しているときには変化しないが,物体が(加速)運動を始めると,ひずみの変化が時空を光速で伝播する。このひずみの波が重力波で,それが通過するとき物体は重力場の(周期的な)変動を感じる。現在,遠方の銀河内で起きる連星の合体や超新星爆発のさいに放出される重力波を検出することを目指してレーザー干渉計実験装置が稼働中である。(p.11「アインシュタインと『フィジカルレビュー』誌の確執」)

●座標特異性[coordinate singularity]
曲がった時空の構造は,各点近傍の局所地図(局所座標系)とその張り合わせにより表される。この局所地図の取り方が悪いと,滑らかな時空構造が不連続に見えるなどさまざまな特異性が生じる。たとえば,地球の表面を緯度と経度という2つの座標を使って2次元の平面地図で表すと,北極点と南極点は線分に引き延ばされ,一本の経線は地図の左右の縁に引き裂かれる。これらの特異性は,局所的には別の座標系に移れば消滅する。このように,局所座標系の取り換えにより消滅する(時空構造の)見かけの特異性を,座標特異性という。(p.11「アインシュタインと『フィジカルレビュー』誌の確執」)


●南部-ゴールドストーンボソン[Nambu-Goldstone boson]
対称性の自発的破れに伴う無質量粒子。強磁性体における各々のスピンを一律に回転する対称性など,系のもつ連続的な対称性が自発的に破れた相では,基底状態は唯一つではなく自発磁化など(凝縮)の方向で区別される連続無限個存在する。この範囲内で各時刻・位置での凝縮の方向が緩やかに変化する集団励起の量子を南部-ゴールドストーンボソンとよぶ。物理系と破れる対称性に応じてマグノン,フォノン,アクシオン,ディラトンなどの個別の名称をもつ。(p.40「素粒子と物性のキャッチボール 対称性と乱雑さ」)

●カイラルラグランジアン[chiral Lagrangian]
π中間子どうしの相互作用を記述するラグランジアン。アップおよびダウンクォークの微小な質量を無視する近似において,強い相互作用を記述する量子色力学は2種類のクォークを右・左巻き成分ごとに独立に混合するカイラル対称性をもつ。その自発的破れに伴うNGボソンであるπ中間子のラグランジアンの形は,基礎理論である量子色力学の複雑なダイナミクスを解く必要なしに,カイラル対称性のみにより決定される。(p.40「素粒子と物性のキャッチボール 対称性と乱雑さ」)

●レプリカ法 [replica trick]
不純結晶中の電子やスピングラスなど乱雑さを含む統計力学系・量子力学系を解析する技法。対象とする系の複製を仮想的に複数個用意して乱雑さの平均をとることからその名が由来する。エネルギー準位の統計的ふるまいを調べるさいには乱雑系をNGボソンの場の理論に帰着させ,後者で確立された諸手法の適用を可能とする点で,物性論と素粒子論の橋渡しをする技法といえる。1体問題のみならず粒子間相互作用をもつ多体の乱雑系にも適用できる利点がある。(p.40「素粒子と物性のキャッチボール 対称性と乱雑さ」)