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今月のキーワード
プランクエネルギー / コンパクト化 / モジュライ/ ホイーラー‐ド・ウィット方程式 / プランク長さ / 宇宙項 / 反ド・ジッター時空 / ド・ジッター時空 / レッジェポール理論 / バーテックス演算子 / ゼロスロープ極限
●プランクエネルギー[Planck energy]
重力の量子効果が重要になると考えられるエネルギースケール。1019GeV程度に相当し,将来的にも加速器を用いて実現することは不可能と考えられる。プランクスケールでは素粒子の標準模型が破綻し,重力を含む,より基本的な理論に取って代わると考えられている。その最有力候補が超弦理論である。また素粒子の標準模型に存在するさまざまな謎を理解する鍵が,プランクスケールの物理にあると期待されている。(p.12「スーパーストリング,究極の理論か空虚なる理論か」)


●コンパクト化[compactification]
高い次元をもった時空を最初に考えて,そのうちのいくつかの次元の方向が小さく丸まっていると見なすことにより,低い次元の時空をつくる操作。特に超弦理論では10次元が自然な時空として考えられるため,そこから出発してわれわれのすむ4次元の時空をつくる操作として,コンパクト化がしばしば用いられる。これに対して,4次元時空を高次元時空内のブレインとしてとらえる考え方が最近話題になっており,「ブレインワールド」とよばれている。(p.12「スーパーストリング,究極の理論か空虚なる理論か」)

●モジュライ[moduli]
一般に互いに非等価な縮退した真空のことをモジュライといい,これをラベルするパラメーターのことを「モジュライ・パラメーター」とよぶ。場の理論では超対称性をもったゲージ理論において,ヒッグス場の真空期待値がモジュライ・パラメーターとなる例がよく知られている。超弦理論には一般にモジュライ・パラメーターが数多く存在しているが,非摂動的に理論を定式化した場合には,特定の真空が選ばれる可能性も考えられている。(p.12「スーパーストリング,究極の理論か空虚なる理論か」)

●ホイーラー‐ド・ウィット方程式[Wheeler-De Witt equation]
正準形式の重力理論では,一般座標変換不変性に対応して4個の拘束条件が現れる。量子論において,これらの拘束条件は時空の状態を記述する波動関数に作用する演算子として表される。物理的状態の波動関数はこれらの演算子の作用によって消えなければならない。ホイーラー‐ド・ウィット方程式は4個の拘束条件の内の1つで,量子重力の力学的構造を規定している。シュレーディンガー表示では,3次元空間上の計量に関する複雑な汎関数微分方程式になる。(p.24「ループ量子重力理論」)


●プランク長さ[Planck length]
重力の量子効果が重要になるスケール。プランク定数を2πで割ったh, 光速c, ニュートン定数Gを用いて,プランク長さ(lp)はlp=(hG/c3)1/2〜1.6×10−35m で与えられる。現在の素粒子実験で観測できるのは10−18m程度であるから,それよりも10−17倍も小さなスケールである。(p.24「ループ量子重力理論」)

●宇宙項[cosmological constant term]
アインシュタイン方程式に一般に存在しうる項。この項の比例定数を宇宙定数という。観測から,現在の宇宙は“正”の宇宙定数をもつようである。宇宙定数は,もともとアインシュタインが導入したものの,後に「生涯最大の誤り」と後悔したことで有名である。しかし場の理論の立場では宇宙項は真空のエネルギーであり,存在する方が自然である。もっとも宇宙定数の観測値は理論的な予測と比べるときわめて小さいため,なぜこれほど小さいかを説明することが理論家の頭痛の種となっている。(p.33「宇宙はなぜ加速膨張しているのか」)

●反ド・ジッター時空[anti-de Sitter space;AdS]
物質がなく,“負”の宇宙項だけがある場合のアインシュタイン方程式の解で,もっとも対称的な時空。実際の宇宙と違い,宇宙項が負であるため現実的な宇宙ではないが,超弦理論を使って盛んに議論されている。これはこの時空上の量子重力理論が,ある種のゲージ理論で表されると考えられているからである(AdS/CFT 双対性)。このため,ゲージ理論の既知の結果から重力理論の議論ができたり,重力理論の既知の結果からゲージ理論の議論(たとえばクォークの閉じこめなど)ができるという利点がある。(p.33「宇宙はなぜ加速膨張しているのか」)

●ド・ジッター時空[de Sitter space;dS]
物質がなく,“正”の宇宙項だけがある場合のアインシュタイン方程式の解で,もっとも対称的な時空。実際の宇宙は長期的にド・ジッター時空に近づく可能性があると思われている。しかし超対称性をもちえないなど理論的に難しい点が多く,超弦理論を使った議論もようやく始まったばかりである。(p.33「宇宙はなぜ加速膨張しているのか」)

●レッジェポール理論[Regge‐pole theory]
量子力学において粒子の衝突を記述する散乱振幅(S行列とよぶ)のさまざまな物理的性質を表すには,エネルギーや角運動量などの変数を複素数に拡張し,複素平面上の解析関数として扱うのが便利である。特に,散乱が衝突粒子どうしで束縛状態の交換や共鳴の生成などによって起こっているときには,散乱振幅は複素角運動量空間に極特異点をもち,散乱振幅をエネルギーと散乱角度の関数として表示すると,エネルギーが大きい極限のふるまいは,交換される束縛状態に対応する極特異点の位置によって決まる。このように高エネルギーの散乱振幅を角運動量平面の特異点のふるまいによって記述する方法がレッジェポール理論である。(p.50「弦から重力だって!」)

●バーテックス演算子[vertex operator]
粒子の相互作用を時空中の粒子の軌跡(世界線とよぶ)を用いて図で表示する(それをファインマン図とよぶ)と,一般に粒子が別の粒子を吸収したり放出したりする過程は,粒子軌跡の分岐点に対応する。散乱振幅は各分岐点を表す因数の積に分解できる。このとき,分岐過程を表す因子関数を一般にヴァーテックス演算子(頂点演算子)とよぶ。粒子理論を拡張した弦理論でも,弦の相互作用の重要な部分が弦の時空中での軌跡である「世界膜」上に頂点演算子を挿入することにより表現できる。(p.50「弦から重力だって!」)


●ゼロスロープ極限[zero‐slope limit]
レッジェポール理論で大きな役割を果たす複素角運動量(で表す)平面における極特異点の位置は,対応する束縛状態の質量の関数である。たとえば,質量がMでスピンの値がJの束縛状態は,極[1/(−a(s))]を生ずる。ここで,a(s)はエネルギーの2乗の次元をもった変数sは衝突に関与する粒子の運動量やエネルギーによって決まる量で,sが束縛状態の質量に等しい(すなわちs=M2)とき   a(M2)=J を満たす。通常,良い近似で1次関数a(s)=a's+a(0)として表せる。このときパラメーターa'をレッジェスロープとよぶ。弦理論においては,その逆数1/a'が弦の単位長さ当たりの質量を決める基本定数になる。この質量に比べて十分に低いエネルギーでの弦理論の性質は,レッジェスロープがゼロになる極限のふるまいによって決まる。(p.50「弦から重力だって!」)



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