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今月のキーワード
チャーン数 / 量子ホール効果 / エッジ状態 / スピントランスファー / FORT / 質量ΛQCD
●チャーン数[Chern number]
不変に保たれる物理量は通常保存則と関係しており,保存則はネーターの定理により系のもつ対称性(たとえば並進対称性や回転対称性など)と結びついている。一方で,ループが棒を何回巻き付いているかといったトポロジカル(位相幾何学的)な量も系の詳細によらずに不変に保たれるが,これが物理現象に直接顔を出すことがある。その例が量子ホール系におけるホールコンダクタンスである。磁場下で電子の波動関数が運動量空間においてどのようにつながってゆくかを追跡してゆくと,ある整数で特徴づけられることがわかる。この整数は上述の巻き付き数と同様のチャーン数とよばれるトポロジカル不変量で,ホールコンダクタンスと普遍定数を係数として比例しているのである。(p.4「トポロジーからみた量子ホール効果」)


●量子ホール効果[quantum Hall effect]
半導体界面に形成される2次元電子系を極低温に冷やし,面に垂直な強磁場をかけてその抵抗およびホール抵抗を測定すると,ある有限の磁場範囲にわたって抵抗がゼロ(ρxx=0)になり,同時にホール抵抗が普遍定数(h/e2=25.813kΩ)の整数分の1(ρxy=h/ie2)という一定値をとる(量子化される)。これが(整数)量子ホール効果である。ここで整数iはランダウ準位の占有率(つまり第何番目のランダウ準位まで電子が詰まっているか)を表す。量子ホール効果が見られるのはi=(整数)だけでなく,1/3, 2/5, 3/7といった奇数を分母とする分数の場合にも類似の現象が見られる。これらは分数量子ホール効果とよばれる。整数量子ホール効果は系のランダムポテンシャルによる電子の局在の現れとして理解されている。それに対して,分数量子ホール効果のほうは電子間の強い相互作用が本質的な役割を果たす多体効果である。(p.12「電子の流れを見る」)


●エッジ状態 [edge state]
有限サイズ(端のある)試料の量子ホール状態では試料内部(バルク)の電子状態はすべて局在しており,電流は試料の端に形成されるエッジ状態(1次元伝導チャネル)によって運ばれる。エッジ状態は,古典的描像ではサイクロトロン円軌道が試料の端でくり返し反射されてできるスキッピング軌道に対応するもので,試料端のポテンシャル勾配(局所電場)と磁場とによって決まる一方向にのみ電流を運ぶ。量子ホール効果を理解する1つの描像として,エッジチャネルにランダウアー・ビュティカー公式を適用するモデルが有効である。(p.12「電子の流れを見る」)

●スピントランスファー[spin transfer]
鉄やコバルトなどの金属強磁性体の中では,伝導電子のスピン(角運動量の一種で磁気モーメントを担う)は強磁性体の磁化と平行(または反平行)になろうとする相互作用が働く。強磁性体に電子を入射したとき,電子のスピンの向きが磁化の向きと異なる場合は,電子のスピンの向きが変化する。この電子のスピン角運動量の変化は,角運動量保存則により,磁化に与えられることになる。このような伝導電子から(強磁性体の)磁化へのスピン角運動量の受け渡しをスピントランスファーとよぶ。(p.32「電流で磁壁を動かす」)


●FORT[Far-Off Resonance dipole-force Trap]
原子の共鳴から十分離調された光によって原子を分極させ,光強度の勾配によって原子を閉じ込める保存力型のトラップ。離調の取り方を負に取ると光強度の極大部分へ閉じ込められるので,たとえばガウスビームを強くフォーカスすることにより,その焦点に原子がトラップされる。この光双極子トラップは原子を捕獲しておけるが,冷却効果はない。今回の場合,共振器内の光と原子の相互作用時間を長くするためにこの光双極子トラップが用いられた。(p.37「単原子レーザー発振の成功」)


●質量ΛQCD[mass ΛQCD]
強い相互作用を記述するQCD理論にあらわれる典型的なエネルギースケールでΛQCD〜200MeV程度である。QCDでは量子的な効果により,くりこまれた相互作用定数が長距離で強くなる性質をもっているが,ΛQCDはこの相互作用が強結合となるスケールとして定義される。このため,高エネルギーでは自由にふるまっていたクォークが,低エネルギーになると閉じ込めをおこしΛQCDで決まる質量のハドロンを構成する。(p.47「分析と統合機物質のなりたち」)

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