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今月のキーワード
宇宙マイクロ波背景放射/ 宇宙の晴れ上がり / 地平線問題 / シンクロトロン放射 / インフレーション / 衝突型加速器 / ルミノシティ / ビーム不安定性 / 溶存・懸濁物質 / 逆浸透膜ろ過
●宇宙マイクロ波背景放射[cosmic microwave background radiation]
宇宙を一様に満たしている絶対温度2.7度の光子の放射(学界では通常,輻射とよぶ)で,ほぼ完璧な熱平衡分布のスペクトルをもっている。これはかつて宇宙が高温度の熱平衡状態にあったことを示すものであり,宇宙膨張とともに放射の波長が引き延ばされ,現在の典型的な波長がマイクロ波領域になっていることからその名が付いている。また,その温度分布は宇宙が晴れ上がったときの密度ゆらぎを反映している。(p.15「インフレーションが描いた宇宙地図,宇宙地図が描いたインフレーション」)


●宇宙の晴れ上がり[decoupling]
初期宇宙は高温状態にあったため,すべての原子はイオン化したプラズマ状態にあり,光子は電子によって散乱され,まっすぐ進むことができない。宇宙の温度が絶対温度3千度くらいまで下がると電子は原子核と再結合し宇宙は中性原子によって構成されるようになり,光子はまっすぐ進めるようになる。これを宇宙の晴れ上がりという。曇りの日にはお日様の光を直接見ることができず,雲の表面から届く光を見ることになるので,雲の表面の様子がよくわかる。現在われわれが観測する宇宙背景放射は,晴れ上がり時から届く光子なので,そのころの宇宙の様子がよくわかるのである。(p.15「インフレーションが描いた宇宙地図,宇宙地図が描いたインフレーション」)


●地平線問題[horizon problem]
古典ビッグバン宇宙論における宇宙膨張則は緩やかなものであるため,宇宙史の各時刻までに因果関係をもつことができた最大のスケールである地平線は,たかだか各時刻に光速をかけた程度の長さにすぎない。しかし,観測されている宇宙マイクロ波背景放射の温度分布は宇宙の晴れ上がり時の地平線をはるかに超えたスケールにわたって同じ値をもっている。これに代表されるように,地平線を越えて一様・等方性が成り立っていることの不思議を地平線問題という。(p.15「インフレーションが描いた宇宙地図,宇宙地図が描いたインフレーション」)

●シンクロトロン放射[synchrotron radiation]
相対論的エネルギーの荷電粒子が電磁場中を運動するさい,ローレンツ力で軌道が曲げられるときに発生する電磁放射。宇宙物理学では主に磁場中の電子からの放射光を指す。磁場中の電子の軌道はローレンツ力により円状になり,球心加速度により運動軌道の接線方向へ電磁波が放射される。放射光は,特徴的なスペクトルをもつ。宇宙における相対論的電子のエネルギー分布がべき型分布が多いため,さまざまな放射機構による光の中からシンクロトロン放射成分を認定するのは特に電波領域では容易であり,宇宙空間における相対論的電子および磁場のよい検出手段となっている。(p.29「宇宙に広がる磁場」)


●インフレーション[inflation]
宇宙の歴史を記述する標準模型は,ビッグバン宇宙論とよばれ,2.7K背景放射や元素合成理論などにより検証されている。このビッグバン宇宙論の問題である,宇宙の平坦性や一様性,大統一理論の相転移で発生するモノポール問題などを解決するために提案されたのが,インフレーション宇宙論である。インフレーション宇宙論では,宇宙のごく初期の短時間に,真空のエネルギーの効果によって宇宙が急激に膨張したと考える。その後,このエネルギーが開放されて,高温のプラズマ状態が実現し,ビッグバン宇宙論で要請される熱い宇宙が実現される。インフレーションの予言として,量子ゆらぎから発生する密度ゆらぎがあり,その結果は,最近の宇宙背景放射の観測と非常によく整合している。しかし,何がインフレーションを引き起こしたのか,などインフレーションの機構についての定説はまだない。(p.42「WMAP衛星による宇宙背景放射の精密観測」)


●衝突型加速器[colliding-beam accelerator]
両側から加速した粒子を衝突させ,発生する素粒子反応を観測するための加速器。衝突させる粒子としては電子-陽電子,陽子-(反)陽子,陽子-電子,核子-核子などがある。加速器の形態としては円形・線形どちらも存在する。イタリアのADA(0.5 GeV,1962),旧ソ連のVEP-1(0.26GeV, 1963)が草分け。KEKBはTRISTANに続く日本で2台目の衝突型加速器。(p.51「KEKB加速器が世界新記録」)


●ルミノシティ[luminosity]
単位時間・単位面積あたりの粒子どうしの交差(遭遇)回数。通常cm−2s−1やnb−1s−1  (=1033cm−2s−1)が単位として用いられる。粒子の単位時間の反応数は反応断面積(物理法則で決まる)とルミノシティ(実験装置の性能で決まる)の積で表される。ルミノシティの時間積分は「積分ルミノシティ」とよばれ,ある期間の反応の蓄積量に比例するものである。(p.51「KEKB加速器が世界新記録」)


●ビーム不安定性[beam instability]
ある条件のもとで加速器内のビームが安定状態から外れ,振動・ビームサイズの増加・寿命の低下などを招くこと。主としてビーム強度の増大に伴う電磁場の乱れ・イオンや電子雲の発生などが原因となる。また不安定性の形態として,多数のバンチ間の相互作用によるもの,単バンチ内の相互作用によるもの,一粒子の力学的不安定性によるものなどに分類できる。(p.51「KEKB加速器が世界新記録」)


●溶存・懸濁物質[dissolved and suspended matter]
水中に溶けている物質と懸濁している物質を指すが,実際の水中では両者の判別は難しい。そこで,およそ0.7μmの平均孔経のろ紙(ガラス繊維ろ紙が使われる)を通過したものを溶存物質,ろ紙上にこしとられたものを懸濁物質と,便宜的に区別している。したがって,溶存物質には溶けているもの以外に,懸濁している微粒子も含まれる。海水中の溶存物質としては黄色物質や腐植酸とよばれるものが多い。一方,懸濁物質には,無機物や有機物の粒子のほかに,細菌やプランクトン,さらには魚や海産ほ乳類などのさまざまな大きさの生物も含まれる。つまり,溶存・懸濁物質は水中に存在する水分子以外のすべての物質を表している。水中に含まれる溶存・懸濁物質の量は沿岸で多く,外洋で少なくなり,含まれる内容も場所や季節などで変化する。外洋の海が青色をしているのは,溶存・懸濁物質が少ないために,青色以外の光が水によって吸収されてしまった結果であるし,沿岸では溶存・懸濁物質と水が吸収しにくい緑色光が残って緑色をしている。(p.60「海洋深層水とただの水」)


●逆浸透膜ろ過[reverse osmosis membrane filtration]
海水淡水化のために1960年代に米国で開発された新技術。英語の頭文字をとって,ROろ過ともよばれる。半透膜の両側に塩水と純水を入れると純水が膜を透過して浸透圧の高い塩水側に移動することがヒントになって,塩水側に浸透圧以上の圧力をかけて塩水中の水だけを純水側に移動させることが工夫されて発明された。そのさい,水の移動方向が浸透現象と逆になるところから,逆浸透と名づけられた。逆浸透膜ろ過では半透膜による塩の透過阻止率が99%以上になるため,1回の処理で海水はほぼ真水近くまで塩が除去され,2回処理すれば純水に近い水が得られる。半透膜は,塩だけでなく海水中に溶けているさまざまなイオンの透過を妨げ,また,懸濁粒子の透過も完全に阻止する。塩などの溶存物質の透過阻止率は,半透膜の材質や加工法などによって異なる。半透膜が溶存物質を通過しにくくする仕組みについては,複数の理論が出されているがいまだ確定的な説明にはなっていない。逆浸透膜ろ過は海水淡水化をはじめ,工場の洗浄水などの浄化に広く利用されている。日本は高品質の逆浸透膜生産で世界的に高い技術力をもっている。(p.60「海洋深層水とただの水」)



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