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今月のキーワード
ガンの加熱治療/フラストレーション/冷陰極(電界放射陰極)/MEMS/酵素ダイナミクス/異性化酵素/核子スピンの危機/ゲノム研究/生命倫理
ガンの加熱治療[high temperature treatment of tumor]
ガン細胞が正常細胞に比べて四十数℃の温度に弱いことを利用して,患部を数十分以上の長時間加温する加温療法(ハイパーサーミア:hyperthermiaともよばれる)と,ガン組織を局所的に凝固温度である六十℃程度以上に比較的短時間加熱する凝固療法(焼灼療法:ablation treatmentともよばれる)とに大別される。主な加熱手段としては,GHz域の電磁波(マイクロ波)・MHz域の電場または磁場・MHz域の超音波があり,加熱手段を体外において経皮的にエネルギーを伝える方式・体腔内に挿入する方式・患部に刺入する方式や,前者の場合には,血液を体外に循環させて加温する方式もある。(p.20「音波外科療法がつ恐伺箸鰺僂い神菽偲治療」)

フラストレーション[frustration]
いくつかの相互作用が競合しているため,それらすべての相互作用についてその効果を最大限に発揮できないような状況のことをいう。三角格子上など任意の閉ループに奇数個の相互作用があるような系において実現する。たとえば互いのスピンを反並行に揃えようとする反強磁性スピン系や,電荷を互いになるべく離れて配置させようとする電荷秩序系で現在も活発に研究されている。このようなフラストレーション系では多様な協力現象がおきることが知られている。(p.29「人類最古の磁性体マグネタイトの謎」)

冷陰極(電界放射陰極)[cold cathode, field-emission cathode]
真空管,電子顕微鏡などで電子線を発生させるしくみは,熱電子放出を利用するものと,金属表面付近に強い電界をつくり,仕事関数のポテンシャル障壁を通してトンネル効果(電界放射)によって電子を引き出すものとに分かれる。前者が熱陰極,後者が冷陰極である。電界は電極表面の曲率半径の小さい場所に集中するので,冷陰極では鋭い先端からのみ電子線が放出されるため,高輝度の小さい(明るいコヒーレントな)電子線を得ることができる。(p.38「ナノチューブ極微小真空管」)

MEMS[micro electro mechanical systems]
半導体集積回路の微細加工技術(フォトリソグラフィー)を利用してつくられた,3次元構造をもつ微小な機械部品。振動する片持ち梁や弁,歯車など,機械的な運動をする微小素子をつくることができ,小さいために高感度でかつ壊れ難い,電子回路をつくりつけることができるなどの利点がある。加速度計,傾斜計などのセンサーとして用いられる他,光集積回路の光路制御,生体に埋め込むモーターやポンプといった利用も考えられている。(p.38「ナノチューブ極微小真空管」)

酵素ダイナミクス[dynamics of enzyme]
酵素は,基質に対して化学反応をする場を提供している。酵素反応はその詳細を見れば,基質の結合,反応の第1段階,第2段階,・・・,基質の解離,というように,いくつかの段階を経る反応サイクルからなっている。その反応の各段階に沿って酵素は,その段階の反応を触媒する場として最適な構造に変化する。この一連の酵素の構造変化をここでは,酵素のダイナミクスとよんでいる。(p.40「核磁気共鳴で見る酵素のダイナミクス」)

異性化酵素[isomerase]
基質を構成する原子団の結合状態を変えることによって,1つの異性体から他の異性体に変える異性化反応を触媒するEC5に分類される酵素の総称で,イソメラーゼともよばれる。ここでは,CypAというシスートランスイソメラーゼが紹介されている。CypAは基質タンパク質中のプロリン主鎖を回転させ,シス異性体をトランス異性体に,またはトランス異性体からシス異性体に変化させる。(p.40「核磁気共鳴で見る酵素のダイナミクス」)

核子スピンの危機[nucleon spin crisis]
陽子や中性子(まとめて核子)は3つのクォークがグルーオンとよばれる糊の役割をする粒子で繋がってできている。核子のスピン(自転のような性質)は当然,その構成要素各々のスピンや核運動量のベクトル和として決まる量である。長年,核子のスピンはクォーク3つのスピンの和として決まっていると単純に信じられていた。しかし驚くべきことに,クォークのスピンの向きをちゃんと実験で測ってみると,核子のスピンのうちクォークが担っている部分は約20%程度でしかないことがわかった。この事実は,核子という基本的な粒子の構造がまったく理解されていないことを意味し,核子スピンの危機とよばれている。(p.49「世界初の偏極衝突型加速器の誕生」)

ゲノム研究[genomics]
ゲノムとは,1つの生物がもつ遺伝情報の全体のことを指す。人間の場合は,その中に3万数千個(推定)の遺伝子が含まれている。ゲノム研究とは,さまざまな生物のゲノムの情報をまるごと解読し,解析することによって,細胞の機能,個体発生や進化などの基礎的な生命現象の理解と,医療や農業などの応用技術の開発を進めることを目指す学問分野のこと。1990年代になって本格的に確立した新しい研究分野だが,21世紀の生命科学の基盤になると考えられている。(p.58「生命倫理と“ゲノムひろば”」)

生命倫理[bioethics]
基礎医学,臨床医学,および生命科学の進展にともない,さまざまな社会的問題が生じる。その中には,患者や被験者の人権の保護,遺伝情報や医療情報の扱い方,ヒトの胚を含む生命の扱い方などの広範囲の問題が含まれる。生命倫理という言葉には,それらの問題に対処するための基本的な考え方や原理を提示する学問的営み(生命倫理学)をはじめ,具体的な規制や指針などを作成するための議論や作業の過程,さらには関連する社会的議論など,多様な内容が含まれる。(p.58「生命倫理と“ゲノムひろば”」)


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