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今月のキーワード
ラグランジュ的表現とオイラー的表現/レイノルズ数/乱流の普遍則/間欠性/エネルギーカスケード/解の安定性/解の分岐/カオス/DNS/一様等方性乱流/スペクトル法/空力係数/トムズ効果/境界層制御/サメ肌/ヘリウム乱流/スーパーコンピューター/乱れの描写/泡の描写
ラグランジュ的表現とオイラー的表現[Lagrangian representation, Eulerian representation]
流れ場の流速などの物理量(それをAとする)の時間変化を場所を固定して表現する方法をオイラー的表現(記述)という。すなわち,その場所の位置ベクトルをxとすると,Aをxと時間tの関数A=A(x, t)として表現することに相当する。一方,流れとともに動く小さな塊(流体粒子)に注目し,その流体粒子に沿っての時間変化を表現する方法をラグランジュ的表現(記述)とよぶ。すなわち,各流体粒子を区別する座標(たとえばある初期時刻の流体粒子の位置ベクトル)をaとすると,A=A(a, t)と表現することになる。ラグランジュ的時間微分(D/Dt)Aとオイラー的時間微分カA/カtとはDA/Dt=[(カA/ カt)+(u・∇)A]の関係がある。その2つの微分の違い(u・∇)Aは,流体の動き(流れ)に伴い,流体粒子が動くことに起因している。(p.6「乱流の統計理論」)

レイノルズ数[Reynolds number]
流れの非線形性の大きさを表すもっとも重要な指標の1つで,Re=UL/nで定義される。ここで,L,Uはそれぞれ流れの代表的長さおよび流速であり,nはn=m/r(mは粘性率,rは流体の密度)で定義される動粘性係数である。流れのスケールあるいは流速が大きいほど,また,粘性が低いほどReは大きい。おおまかには,Reはナビエ・ストークス(Navier-Stokes)方程式における慣性(移流)項の粘性項に対する比とみなされる。一般に流れは,Reが低いとき層流で,高いとき乱流となる。Reは通常非常に大きく,たとえば,飛行中の旅客機のまわりの流れで109,台風で1012以上となる。(p.6「乱流の統計理論」)

乱流の普遍則[universal laws of turbulence]
流体を入れたパイプの両端に大きな圧力差をつけたり,容器に入れた流体を強く攪拌したり,容器の上下に大きな温度差をつけて熱対流を起こすなどさまざまな方法で乱流を発生させることができる。容器壁の近傍や容器と同程度のスケールの変動の統計的な性質は乱流の発生機構の詳細を反映するが,容器壁から十分離れたところや容器の大きさに比べて十分小さなスケールの変動に対しては乱流統計の発生機構の詳細にはよらない普遍的な法則が成立している。コルモゴロフの普遍スペクトルはその典型的な例である。(p.13「乱流場のスケーリングと構造」)

間欠性[intermittency]
乱流はさまざまなスケールの渦が混在したものと考えられる。渦の内部では流速の乱れが大きいが,渦から離れたところでは乱れは小さい。乱流にある流体はいたるところで乱れが強いわけではなく,乱れの強いところと弱いところが混在している。これを間欠性という。同様な語に地中で暖められた水が勢いよく噴出する間欠泉がある。一般に,変化の小さな(規則性のある)状態が長時間あるいは長い空間スケールにわたって,変化の大きな(不規則性の強い)状態が短時間あるいは短い空間スケールで観測される変動をいう。(p.13「乱流場のスケーリングと構造」)

エネルギーカスケード[energy cascade]
3次元乱流では,大きなスケールLで流体中に運動エネルギーとして注入されたエネルギーは,順々に小さなスケールに流れていく。これをエネルギーカスケードという。小さなスケールへのエネルギーの流れはナビエ・ストークス方程式の慣性項(非線形項)に起因する。スケールLとコルモゴロフスケールhで起こるこの過程の変動は,スケールを変えても現象が統計的な意味で同じように見えることが特徴である(相似性)。小さなスケールに流れていったエネルギーは,hより十分小さなスケールで最終的には熱に散逸していく。(p.13「乱流場のスケーリングと構造」)

解の安定性[stability of solutions]
方程式の解が自然現象として実現されるためには,初期条件に微小な違いがあっても解はほとんど影響されない,という性質が必要と考えられ,これを解の安定性という。無限小の大きさの撹乱に対する安定性の判定は,元の方程式を解のまわりに線形化して得られる作用素の固有値を調べればよく,この手続きを線形安定性理論という。また,やや大きい撹乱に対する安定性は,非線形効果を考慮して議論される。ただし,現実に実現する現象には,弱い不安定性を伴う過渡的現象,という場合もあるので,理論的結果との関係は必ずしも単純ではない。(p.21「層流から乱流へ」)

解の分岐[bifurcation of solutions]
通常,適当な境界条件のもとで,線形方程式の解は一意に決まる。しかし非線形方程式では,このような解の一意性は必ずしも成立せず,複数の解がおなじパラメーター値において存在し得る。このため,流体系のような非線形系では,系のパラメーターを変化させたとき,解の個数が変化することも珍しくない。このとき,系の線形化作用素の固有値(の実部)の符号が変化するパラメーター値において,元の解から新しい解が分かれ,これを解の分岐という。分岐を起こすパラメーター値は,元の解の線形安定性が安定から不安定に変化する点と一致する。(p.21「層流から乱流へ」)

カオス[chaos]
非線形方程式の解には,定常解/周期解/準周期解のいずれとも異なって,有限領域に留まりながらも,初期値のわずかな違いが時間的に指数的に拡大される,という初期値敏感依存性をもつものがあり,カオス解とよばれている。粘性流体系のような散逸系では,カオス解の軌道はストレンジアトラクターとよばれる複雑な構造をもつ有界集合上にあるが,その構造には未知の部分が多い。ナビエ-ストークス方程式から流体乱流のカオス解の構造を論理的に導く,といった理論が待たれるが,いくつものブレイクスルーが必要と思われる。(p.21「層流から乱流へ」)

DNS[direct numerical simulation]
乱流中では大小さまざまなスケールの変動(渦)が混在する。コルモゴロフスケールより小さいスケールの渦は粘性のため十分振幅が小さいので,その影響は一般に無視してよい。DNS(直接数値シミュレーション)は乱流運動について何らのモデル化や近似を行わないで,すなわち流体方程式を直接数値的に解くことにより,コルモゴロフスケールの変動まで取り入れて流れ場をシミュレートする方法である。そのため一般にその計算は大規模で高価となるが,精度・信頼性に優れている。(p.27「乱流の謎にせまる計算科学」)

一様等方性乱流[homogeneous isotropic turbulence]
場の統計的性質が空間の並進に対して不変な乱流を一様乱流といい,空間回転に対して不変なものを等方乱流という。この一様等方性は流体方程式と矛盾しない。一様等方乱流ではその高い対称性によって理論的簡単化が可能であり,テイラーによって最初に提案された。特に,壁から離れた十分小さなスケールでは,この状態が巨視的状態によらず漸近的に実現されると考えられており,乱流の普遍性を探る上でこの概念はきわめて重要な役割を果たす。実験的には格子を過ぎる流れがこの乱流の良い近似として実現される。(p.27「乱流の謎にせまる計算科学」)

スペクトル法[spectral method]
流体方程式の数値解法の1つ。場を適当な関数系で展開(スペクトル分解)し,その展開係数の従う連立常微分方程式を数値的に時間積分する方法。その関数系としては一般に境界条件に応じて決められる直交関数系が用いられる。微分演算やポアソン方程式の解が代数的演算で求めることができるため,差分法や有限要素法と比べ精度の劣化がほとんどない。ナビエ‐ストークス方程式のように,非線形項がある場合には一般に計算量が膨大になるが,境界条件が単純な場合,高速フーリエ変換等を用いて計算量を飛躍的に節約することが可能である。(p.27「乱流の謎にせまる計算科学」)

空力係数[aerodynamic coefficients]
流れの中にある物体には流れから力が働く。この力は流れの動圧とよばれる  (1/2)ru2 (r:密度,u:流れの速度)と物体の前面投影面積Sに比例する。そこで,この2つの量で力を正規化した係数C=F/(1/2)ru2Sを定義する。この係数を空力係数とよぶ。空力係数は物体の形の違いだけを反映し,物体の大きさや流速の違いを吸収してくれる。この空力係数は力の成分それぞれに対して,空気抵抗係数(流れの下流向き成分),横力係数(水平成分),揚力係数(垂直成分)とよばれ,略号として,CD,CS,CLを使う。(p.34「野球のボールは本当に曲がっているか」)

トムズ効果 [Tom's effect]
ねばねばした高分子体液を体の表面にしみださせ,乱流境界層内エネルギーの輸送を抑制することで流体の摩擦抵抗を大幅に減らす効果のこと。まぐろやかつおなど多くの高速魚が身に付けている工夫。その研究者名を取って命名した効果。(p.39「高速魚類の賢い泳ぎかた」)

境界層制御[boundary layer control]
自然のままでは乱流境界層に遷移してしまう状態を,層流状態に保つように制御する技術(層流制御),あるいは乱流状態のままでより低い流体の摩擦抵抗状態に制御する技術(乱流制御)。(p.39「高速魚類の賢い泳ぎかた」)

サメ肌[shark skin]
サメの表面を覆っている肌のこと。サメの表皮は他の魚と大きく異なっていて,基礎研究からその構造が流体の乱流境界層により発生する摩擦抵抗を大幅に低減する効果を有している,といわれている。(p.39「高速魚類の賢い泳ぎかた」)

ヘリウム乱流[helium turbulence]
ヘリウムは温度,圧力にその状態が大きく依存する。極低温では,量子力学的効果が現れ,量子渦などの現象が確認されている。通常の乱流と同種の性質(Navier-Stokes方程式に従う流れ)は,飽和蒸気圧線上方の温度4.2Kからλ転移点2.1768Kまでの液体,臨界点を超えて6Kあたりまでの気体状態と考えられている。容器内熱対流の実験では,レイリー数が4×107程度を境に異なる2つの乱流状態が確認されている。(p.44「高レイノルズ数乱流の魅力」)

スーパーコンピューター[supercomputer]
高い演算性能をもつ科学技術計算専用のコンピューターのこと。開発時期の最先端技術が用いられるため演算性能は年々高くなる。1976年のCRAY‐1の出現以来,1990年前半までは,高速なベクトルプロセッサーとメモリー‐レジスター間の高いデータ転送性能が特徴であるパイプライン型スーパーコンピューターが主流であった。近年は多数のコモディティ・プロセッサーを結合した並列計算機やクラスター型計算機がコストパフォーマンスの良さで注目されている。(p.49「『地球シミュレータ』による世界最大規模乱流シミュレーション」)

乱れの描写[description of turbulence]
この言葉は専門用語ではない。古典や絵画のなかで,乱れた流れの様子がいかに描写されているかということを問題にするとき,見出しとして使われる言葉である。乱れの様子を日常語で描写するには,流れの様子を鋭く観察することはもちろん,流れの様子が人間の思想や感性にどのように影響を与えてきたかを考察しなければならない。古典や美術から私たちが学ぶことは,これらの考察であると考えられる。(p.56「乱れに着目した先達たち)

泡の描写[description of bubbles]
「乱れの描写」と同じく,この言葉は専門用語ではない。古典や美術では,泡が生成され運動する様子がいかに描写されてきたかということを論じるとき,見出しとして使われる言葉である。私たちが「泡」という言葉からどんな印象を受けるかを考えてみよう。はかなくてすぐ消えるもの,軽くて動きやすいもの,柔らかくで滑らかなもの,など実に多様である。泡を描写した文からは,観察した者の思想や心理を探ることができる。(p.56「乱れに着目した先達たち)


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