index 2002index 3月号目次 3月号目次

今月のキーワード
コロイド/複雑液体/タンパク質の折りたたみ/アクチン/環境走査型顕微鏡/バリスティック伝導/ランダウアー公式/コンダクタンスの量子化/動的トンネリング/量子操作/パラメトリック下方変換


コロイド[colloid]
直径数ナノメートルから数百ナノメートル程度の粒子が,一様な媒質中に浮遊懸濁している系。または,このような系において分散している粒子(コロイド粒子)のこと。液体が媒質となっているものは,ゾルまたはコロイド溶液とよばれる。界面活性剤などの分子量の小さな両親媒性分子は会合してミセルコロイド(会合コロイド)を形成するし,高分子はそのままでもコロイド粒子としての性質を示す(分子コロイド)。“コロイド”という言葉が生まれた19世紀後半には,もともと固体でも液体でもないような物質を意味していたが,1900年以降,上記のような物質の状態を表す概念として確立した。(p.12「ソフトマター」)

複雑液体[complex liquids]
高分子,液晶,ゲル,両親媒性分子(界面活性剤や生体膜)などのような柔らかい凝縮系。通常の液体のような原子・分子のランダムな集合体ではなくて構造があり,観察する空間スケール,時間スケールによって多様な挙動を示す。さまざまな秩序構造間の相転移(モルフォロジー転移)など,非線形・非平衡の統計物理学に関連する新しい問題を提供し注目されている一方,機能性材料として工業的にも広く利用されるようになりつつある。(p.12「ソフトマター」)

タンパク質の折りたたみ[protein folding]
タンパク質は20種類のアミノ酸が数百個ほど鎖状に連結してできている(ポリペプチド鎖)が,生体内ではこれが折りたたまれて,ある特定の立体構造(高次構造)をとっている。アミノ酸の結合には自由に回転できるものが多く,この折りたたまれ方は原理的には膨大な数になるはずだが,実際にはアミノ酸の配列によって立体構造はただ1つに決まってしまう。タンパク質は折りたたまれてはじめて機能を発揮するため,折りたたみの機構を解明し,タンパク質の立体構造をゲノム配列から予測することは重要な問題となっている。(p.12「ソフトマター」)

アクチン[actin]
動物の細胞に広く存在するタンパク質。球状で分子量数万のGアクチンと,これが重合してできているフィラメント状(繊維状)のFアクチンという2つの型がある。別のタンパク質であるミオシンとともに筋肉のおもな成分となっていて,アクチンフィラメントがミオシンフィラメントとの間で相互作用をすることにより,筋肉の収縮が起こる。アクチン‐ミオシンの運動系は,筋肉以外の細胞でも,原形質流動や細胞分裂などの細胞運動に広く関与している。(p.12「ソフトマター」)

環境走査型顕微鏡[environmental scanning electron microscope, ESEM]
試料から放出される低エネルギーの電子と後方散乱された電子,およびこれらが試料のまわりの水分子と衝突して生じる“環境”電子を検出して像を得る顕微鏡装置。通常の走査電子顕微鏡(SEM)には,水蒸気を発生するような試料を調べられないという欠点がある。そのため,ポリマー,生体細胞,植物,土壌中の細菌,粘着物,懸濁液などといったものをそのまま見ることができない。しかしESEMなら,金によるコーティングなどの前処理をせずにそのような試料を観察することができる。(p.12「ソフトマター」)

バリスティック伝導 [ballistic transport]
電子が散乱されることなく輸送されるときの電気伝導。不純物などの散乱体がなく,平均自由行程が,電子が運動する経路の長さに比べて長くなるときに生じる。低温で半導体界面に形成する電子ガスでは,平均自由行程が10mm程度になり,バリスティック伝導が実現する。これに対し,金属では,平均自由行程は10nm以下になるため,バリスティック伝導を生じさせるためには,試料形状をこのサイズより小さくすることが必要である。(p.21「金原子1個ずつならぶネックレス」)

ランダウアー公式[Landauer formula]
2つの電極間を結ぶ領域が細長く,電子のエネルギーが失われずに電流が1次元的に流れると考えたときの両端のコンダクタンスを与える式である。スピン縮退しているとき,コンダクタンス(G)は,一方の電極の状態から他方の状態へ透過する各チャネルの透過確率で表され,
(e:電気素量,h:プランク定数,n:伝導領域のチャネルの数,Ti:i番目のチャネルの透過確率)となる。(p.21「金原子1個ずつならぶネックレス」)


コンダクタンスの量子化 [conductance quantization]
電子が1次元的に運動するようになるまで幅を狭めた細線状の領域を,運動方向に短くしていったときにコンダクタンスが量子化される現象。量子化の単位は,スピン縮退を除けば,e2/h(e:電気素量,h:プランク定数)である。スピン縮退しているときには,その2倍の2e2/hになる。ランダウアー公式に基づいて考えれば,バリスティック伝導が生じて伝導を担う各チャネルの透過確率が1となると,コンダクタンスは 2e2/hとチャネルの総数の積となる。(p.21「金原子1個ずつならぶネックレス」)

動的トンネリング[dynamical tunneling]
ある力学系の同じエネルギーに属する運動状態であっても,たとえば,外部変調の周期などで決まる時間周期で測定されたときに,粒子の運動が右向きか左向きかといった,異なる運動のモードが存在する。それらは,位相空間中に,合い隔たった安定領域を形成し,古典的にはお互いの行き来は禁止されている。このような,エネルギー的には許容であるが,動力学的には禁制の状態にある2つの古典的位相空間が,量子効果によってつながる現象を,動的トンネリングとよぶ。(p.41「原子振動を逆転させるカオス」)

量子操作[quantum manipulation]
物理系の内部または外部量子状態の操作,制御のこと。“量子”の指す物理的対象と,“操作”の組合せにより,広い意味合いをもつ。原子・分子・電子や,人工的につくられた量子ドット・励起子などに対する精密な(極限的な)操作を意味する場合が多い。レーザー冷却・トラッピングに関しては,原子の位置・運動量・内部エネルギー状態を精密に制御されたレーザー光などの外場により操作している。(p.41「原子振動を逆転させるカオス」)

パラメトリック下方変換[parametric down-conversion]
2次の非線形光学感受率をもつ物質に振動数 w3の光(ポンプ光)を入射すると,光学感受率がw3で変調され,w1およびw2(w1+w2=w3)の2つの振動数の光が発生する。これをパラメトリック下方変換とよぶ。特に,w1=w2=w3/2の場合を縮退パラメトリック変換とよぶ。光を量子化した描像で見れば,振動数w3の光子から,振動数w1およびw2の光子対が生成されることになる。この現象は,力学系(たとえばブランコ)や電気回路で一般に見られるパラメーター励振(parametric excitation)の一種である。(p.45「多光子状態の不思議な干渉」)


index 2002index 3月号目次 3月号目次