index 2001index 12月号目次 12月号目次

今月のキーワード
日本標準時/GMR/TMR/MRAM/ダングリングボンド/原子追跡走査トンネル顕微鏡/ダイヤモンド・アンビルセル/タンパク質/時間認識/インターカレーション/スピンエレクトロニクス/磁性半導体/スピン緩和(の機構)


日本標準時[Japan standard time; JST]
日本における時間(周波数)と時刻の基準は,東京小金井の通信総合研究所(CRL)に備えられている約10台のセシウム原子時計が示す時間(実際は周波数)を相互に監視・比較することによってつくられている。この時刻JSTはGPS衛星などを使って世界の標準時(UTC)と常時比較されている。こうしてつくられた精度の高い(現在13桁程度)時間間隔(周波数)と時刻は周波数40kHzと60kHzの電波(標準電波;JJY)によって日本全国に送信されている。パソコンと電話回線を使って1msの精度で標準時間を知るシステム(テレフォンJJY;回線上の遅延時間を補正できる)やwebで研究所(http://jjy.crl.go.jp)にアクセスすると画面にJSTを表示してくれるシステムもある。JJYを毎時受信して自動的に時刻を修正する電波時計も安価で入手できる。(p.14「新ミレニアムを迎えた時間測定技術」)

GMR[giant magneto-resistance]
巨大磁気抵抗の略。強磁性体と非磁性体の積層構造の薄膜において,強磁性体の磁化の方向に依存して抵抗値が変化する現象で,単層膜で観測される異方性磁気抵抗効果と比較してその変化が桁違いに大きいことから命名された。磁化が反平行配列から平行配列に変化するときにスピンに依存して伝導電子の散乱が減少することで説明されている。(p.23「スピンが担うエレクトロニクスの未来」)

TMR[tunneling magneto-resistance]
トンネル磁気抵抗の略。強磁性体を電極としたトンネル接合(強磁性体/絶縁体/強磁性体)において,偏局したスピンが両電極間をトンネルする際に,両磁性電極の磁化状態に依存してトンネル伝導の確率が変化する。そのときの抵抗の変化する割合がGMRと比較して数倍大きいため,磁気センサーやメモリー用の素子として注目されている。(p.23「スピンが担うエレクトロニクスの未来」)

MRAM[magnetic random access memory]
固体磁気メモリーのことで,不揮発性,高動作速度,大容量化,低消費電力,高耐久性,低コストなどのメモリーに対しての要求をすべてクリアする夢のメモリーとして期待されている。GMRを用いたものとTMRを用いたものが提案されているが,出力が大きい方がよい,すなわち抵抗の変化分が大きい方がよいということで,最近ではTMRを用いたものが一般的となっている。マトリックス状に配置されたメモリーセルへの選択的な書込み,読出しはすべてのセルをクロスするように配置されたビット線とワード線によって行われる。(p.23「スピンが担うエレクトロニクスの未来」)

ダングリングボンド[dangling bond]
半導体などの表面において,バルク内では隣の原子と結合状態にあった軌道が表面では結合する原子がなく非結合状態になっている軌道のこと。エネルギー的に不安定な状態であるため活性が高く,吸着ガスや蒸着された原子・分子と結合を形成しやすい。またダングリングボンドの密度を減らすように表面原子の再配列が起こり,長周期構造が形成される。Si(001)表面のダイマー形成による2×1構造はそうした構造の典型例である。(p.30「半導体表面上での拡散の不思議」)

原子追跡走査トンネル顕微鏡[atom-tracking scanning tunneling microscope]
走査トンネル顕微鏡(STM)において走査用プローブとして用いられる探針を,表面上の吸着原子や欠陥などの上に置き,それらの動きに合せて自動的に追跡するように設定することによって,それらの拡散や回転の動きなどを直接測定する手法。表面平行方向に探針を回転させ,フィードバックによりトンネル電流が大きくなる方向(吸着原子の場合)に探針を移動させることによって,設定される。原子の拡散などを評価する場合,STM像をくり返し撮る方法に比べ,格段にその時間分解能を高めることができる(5ミリ秒から50ミリ秒)。(p.30「半導体表面上での拡散の不思議」)


ダイヤモンド・アンビルセル[diamond-anvil cell]
先端(尖った部分)をわずかに平らに削った宝石用のダイヤモンド2つで,その先端面を突き合せて加圧する実験装置。通常はガスケットとよばれる薄い金属板に穴をあけ,その中に試料や圧力媒体を充して加圧する。他の高圧発生装置に比べて高い圧力が発生できるが,大きさは手のひらに載る程度である。ダイヤモンドの透明性を利用して光学測定に主に用いられている。本文ではコンパクトさを生かして冷凍機の中に取り付けて使用している。(p.38「鉄が超伝導に!」)

タンパク質[protein]
アミノ酸がペプチド結合で多数連結したポリペプチド高分子化合物。アミノ酸の並び方によってさまざまな機能が付与される。生体構造の形成,ホルモンや酵素としての生理活性の発現など,タンパク質はほとんどすべての生体機能に関係している。本号では,タンパク質の新しい機能として時計が紹介されている。タンパク質の機能を理解する鍵は,その構造と構造の動きにあるといわれる。(p.40「タンパク質が時間をはかる」

時間認識[time measurement]
時計の働き。生物のもつ時計は多種あるが,3大別できる。1)リズム型:同じようなことが同じような間隔でくり返し起こる現象に関係する。約24時間でまわる概日時計が代表である。2)インターバルタイマー型:ある基点からの時間長さをはかる。発生・分化のような不可逆的現象に関係すると考えられる。3)分子時計:生物進化の時間をはかる。DNAは,時を刻むように塩基置換を蓄積している。(p.40「タンパク質が時間をはかる」)

インターカレーション[intercalation]
グラファイトなどの層状構造をもつ物質では,層どうしがファン・デル・ワールス力のような弱い力で結合している。この層の間隔を広げて異種の原子や分子,あるいは基が侵入し,新しい化合物が形成される場合がある。この現象をインターカレーションといい,侵入したものをインターカラントとよぶ。C60結晶も,C60分子どうしがファン・デル・ワールス力で結合しており,C60分子の隙間にアルカリ金属などのインターカレーションが可能である。(p.46「C60における電界誘起高温超伝導」)

スピンエレクトロニクス[spin electronics]
電荷とスピンの自由度を用いることによって発現する,電気的,磁気的,光学的な現象を応用する技術。具体例として,巨大磁気抵抗(GMR)やトンネル磁気抵抗抵抗効果(TMR)など磁気によって電気抵抗が変化する素子や,磁気光学効果により光の偏光を制御する光アイソレーターなどがある。現在TMR素子を集積化した不揮発磁気メモリーのほか,半導体のスピンの応用や量子力学的コヒーレンスに関心が集まっている。(p.59「半導体デバイスへのスピン注入を実現」)

磁性半導体[magnetic semiconductors]
半導体と磁性体の両方の性質を有する物質。非磁性の半導体に磁性原子を数パーセント導入した(希薄)磁性半導体では,その性質が磁気に強く影響されるようになる。通常,磁性原子間の直接相互作用は反強磁性的だが,バンド電子や正孔を介した相互作用により強磁性が現れる。強磁性半導体のキュリー温度は,GaMn Asの約110Kが最高であるが,GaNやZnOなどワイドギャップ半導体では室温強磁性が予言されている。(p.59「半導体デバイスへのスピン注入を実現」)

スピン緩和(の機構)[spin relaxation(mechanism)]
電子や核のスピン偏極が減少して熱平衡状態へ緩和する現象(縦緩和),およびスピンがラーモア歳差運動する過程でその位相を失う現象(横緩和)。本文では,半導体中に電気的に注入された,あるいは円偏光の光励起で生成されたキャリアのスピン偏極状態が,ランダムな熱平衡状態に戻る縦緩和する過程を指す。半導体における電子の主要なスピン緩和機構として,スピン・軌道相互作用,バンド混合効果,および電子・正孔間の交換相互作用が知られている。(p.59「半導体デバイスへのスピン注入を実現」)


index 2001index 12月号目次 12月号目次