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今月のキーワード
フラクタル次元/スケーリング則/混合距離/ニュートリノ振動/シンチレーション検出器/ジャッカリーノ‐ピーター機構/交換相互作用/超高速X線回折/量子ホール効果/TMTSF 分子/BEDT‐TTF 分子/モット転移/ブリルアン域

フラクタル次元[fractal dimension]
自己相似的なランダムな形を定量的に表す最も基本的な量で,非整数値もとり得るところからマンデルブローにより命名された。数学的には,ハウスドルフ次元の特別な場合である。特徴的な長さのスケールが存在しない系では,長さのスケールを変えたときの物理量の変化は巾法則で支配される。典型的な例としてはブラウン運動(酔歩)があげられ,原点から進む平均距離が時間の1/2乗に比例することからフラクタル次元は2となる。(p.4「パターン形成をモデル化する」)


スケーリング則[scaling law]
物理学のあらゆる分野に現れる重要な概念で,特徴的なスケールの存在しない系で一般的にみられる法則をいう。物理量Oは系を指定するパラメーターxiの関数として与えられるが,
となるとき,スケーリング則を満たすといい,特徴的なスケールが存在しない系でのスケール変換を反映している。指数aiは臨界指数とよばれ,臨界点近傍の統計力学,高分子のダイナミクス,高エネルギーでの素粒子の散乱などで重要な働きをする。ミクロな基礎づけはウイルソン(Kenneth Wilson)のくりこみ群により与えられた。(p.4「パターン形成をモデル化する」)


混合距離[mixing length]
乱流・対流において,運動量,エネルギー流束や拡散などの輸送現象をモデル化するために,分子運動論の類推からプラントル(1925)が導入したパラメーターで,渦塊が混合によりその個性を失うまでに流れを横切って進む有効的な長さのこと。恒星の対流層においては,その場所の圧力スケールハイトなどを仮定することが多いが,このパラメーターが対流層の温度勾配やエネルギー輸送効率を決めるので重要であると同時に,この概念の限界にもなっている。(p.19「太陽の物理学:恒星理解への道」)

ニュートリノ振動[neutrino oscillation]
宇宙線が大気の原子核と反応して発生したnm(ミューニュートリノ)が地球を貫通して反対側に到達する間にnt(タウニュートリノ)に変化したと考えられる現象がスーパーカミオカンデ実験グループによって観測されている。さらに時間が経過すると再びnmに戻りまたntになることをくり返すと考えられ,ニュートリノ振動とよばれている。ニュートリノ振動は2種のニュートリノの質量がともにゼロであれば起きることはないので,この観測結果はニュートリノに質量がある証拠であると考えられている。また,太陽内部の核融合反応で作られたne(電子ニュートリノ)が地球に到達する間に別種のニュートリノに変化したと考えられる現象も観測されている。(p.28「暗黒物質は発見されたか?」)

シンチレーション検出器[scintillation detector]
ある種の蛍光物質の中には荷電粒子などの放射線によって蛍光を発するものがあり,シンチレーターとよばれる。このような物質と光電子増倍管などの高感度光検出器を組み合わせたのがシンチレーション検出器である。検出器に入射した放射線を電気パルス信号として1個ずつ計数したり,そのパルスの大きさからエネルギーを知ることができる。固体,液体,気体,および有機,無機各種のシンチレーターが放射線計測に使われている。(p.28「暗黒物質は発見されたか?」)

ジャッカリーノ‐ピーター機構[Jaccarino‐Peter mechanism]
磁場で誘起される超伝導を説明する機構。物質に局在した常磁性磁気モーメントとそれと交換相互作用している伝導電子が存在すると,その交換相互作用の符号が負であれば外部磁場をかけたときに,常磁性磁気モーメントは磁場方向にそろうために,伝導電子のスピンにとっては外部磁場と逆向きの内部磁場がつくられることになる。もしゼロ磁場でこの物質が超伝導であれば,外部磁場を少しでもかけると伝導電子は強い内部磁場を感じるために超伝導は壊れるが,外部磁場をもっと上げていくと,この外部磁場と内部磁場がお互いに打ち消し合って,伝導電子スピンの感じる磁場は十分小さくなるため,超伝導が磁場で誘起される可能性がある。この機構はジャッカリーノ‐ピーター機構として知られている。(p.35「磁場誘起超伝導」)


交換相互作用[exchange interaction]
電子のようなフェルミ粒子が2つあるときの状態は,2つの粒子の座標とスピンの交換に対して反対称にならなければならない。このとき2通りの状態(粒子の座標に対して対称であるときと反対称であるとき)が可能であり,両者の状態のエネルギー差を与えるものが交換相互作用である。このエネルギー差は交換相互作用定数Jと2つのフェルミ粒子のスピンS1, S2の積−2JS1S2で表される。−2JS1S2と記述されることから,Jの符号が正(負)のときには2つのスピンが平行(反平行)になる方が安定な状態になる。(p.35「磁場誘起超伝導」)

超高速X線回折[ultrafast X-ray diffraction]
ほぼ光速でリング状の真空パイプの中を周回している電子が,磁場によって横方向の加速度を受けると運動の接線方向にX線(光)が放射される(軌道放射光)。リングの中で電子はいくつか(1〜数百)の塊(バンチ)として運動しているので,放射されるX線は100ps位の長さのパルス列になる。瞬間的に外力を加えた物質に,このパルス列からシャッターを使って適当な間隔で取出したX線を照射して回折像を撮ると,ストロボ写真のように時間分解した構造変化を観測することができる。(p.38「分子変形を追跡する超高速X線回折」)


量子ホール効果[quantum Hall effect]
強磁場下の2次元電子系のホール抵抗(電流と磁場に垂直な方向に現れる電圧と電流との比)が普遍定数h/e2=25,813Wのn分の1に量子化され,同時に縦抵抗(電流方向の電圧と電流との比)がゼロになる現象。ここでnが整数の場合を整数量子ホール効果,nが1/3,2/5,3/7など奇数を分母とする分数の場合を分数量子ホール効果とよぶ。電気抵抗の標準は現在量子ホール効果を用いて定義されている。(p.40「量子ホール系はジョセフソン効果を示すか?」)

TMTSF分子[TMTSF molecule]
化学式は[(CH3)2]2C6Se4で,テトラメチル・テトラセレナ・フルバレンと略称される有機分子。平板状で,その大きさは長さ9Å,幅3Å,厚さ4Å程度。電気的にはドナー性をもち,アクセプター分子とつくる結晶中では+0.5程度の半端な価数をもつ。柱状に積層して1次元的な伝導をもたらすことが多い。(p.48「有機導体の驚くべき新展開」)

BEDT‐TTF分子[BEDT‐TTF molecule]
化学式は(C2H4S2)2C6S4で,ビス・エチレンジチオ・テトラチオフルバレンと略称される有機分子。平板状に近いが,両端のエチレン基はねじれて分子面からとびだしている。大きさは,長さ12Å,幅4Å,厚さ4Å程度。電気的にはドナー性をもち,アクセプター分子とつくる結晶中では+0.5価をもつことが多い。多くの場合,アクセプター分子層に挟まれてBEDT‐TTF分子がびょうぶ状に並んだ層をつくり,2次元的な伝導をもたらす。(p.48「有機導体の驚くべき新展開」)

モット転移[Mott transition]
結晶の中で,伝導電子の電子間クーロン相互作用が原因となって起こる,いくつかのタイプの金属‐絶縁体転移の総称。そのうち,最近の酸化物・有機物超伝導体の研究でよく登場するものは,特にモット‐ハバード転移とよばれる。1サイトあたり奇数個の電子があってバンド幅Wの伝導帯をつくるとき,1つのサイトに2電子が来るとクーロン相互作用によってエネルギーがUだけ高くなるとするなら,U/W>1を目安としてバンドにギャップが現れて絶縁体状態に転移する。(p.48「有機導体の驚くべき新展開」)

ブリルアン域[Brillouin zone]
結晶の中の電子波,格子波,電磁波などの波は,いわば回折格子の中で回折をくり返している波であり,真空中の波とは違ってその波数(2p/波長)に一定の周期性が現れる。この波数の周期域をブリルアン域とよぶ。たとえば,格子定数aの結晶中の波の波数は,2p/aのブリルアン域で区切られ,特に−p/a〜p/aの区域を第一ブリルアン域という。これをはみ出る波数kの波の状態は,k−2np/a(nは整数)の第一ブリルアン域内部の波の状態と,波数の意味では同等に扱うことができる。このような性質は,数学的にブロッホ・フローケの定理として知られている。(p.48「有機導体の驚くべき新展開」)


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