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今月のキーワード
表面張力/量子渦/超流動/アハラノフ‐ボーム位相/平均場近似/(量子ホール効果の)魔法数/サーモトロピック液晶/リオトロピック液晶/原子間力顕微鏡/VLA/MERLIN/アレシボ/SETI/CP非対称/小林-益川理論/ヤーン‐テラー効果/交換相互作用

表面張力[surface tension]
外力の働いていない液体は球形となって表面積を最小にする。その液体を変形して表面積を増加させるためには外力による仕事が必要である。このとき,外力のした仕事と表面積の増加分の比が表面張力である。このことから,表面張力は物質の表面に付随した単位面積あたりの表面エネルギー(erg/cm2)と考えることができる。その単位の次元からもわかるように,表面上に仮想的に引いた単位長さの線分に,その線分と直角な方向に働く張力である。(p.4「液体ヘリウムにおける負の圧力と気泡発生」)


量子渦[quantized vortex]
超流動状態を記述する秩序パラメーター y=|y|eiqの位相qを用いて,超流動の流れ場をv=(h/m)∇qと表すことができる。ただし,ここでhはプランク定数,mはヘリウム原子の質量である。一方,流体中の渦糸を囲む閉曲線にそって速度場を線積分した量は,循環という定数であり,超流動の流れ場に対してこの循環を求めると,秩序パラメーターが空間の一価関数であるという要請から,2ph/mの整数倍の値しかとれない。つまり,超流動では循環が量子化される。超流動ヘリウム中では多くの場合に最小の循環2ph/mをもつ渦糸が実現され,量子渦という。(p.4「液体ヘリウムにおける負の圧力と気泡発生」)

超流動[superfluidity]
液体ヘリウムを冷却していくと,2.2K付近で比熱の異常をともなった相転移を起こし,それより低温では粘性の消失などのめざましい現象,いわゆる超流動を示す。ヘリウム原子の状態を記述する波動関数が,相転移による秩序化によって巨視的な量として増幅される。磁性体におけるスピンと自発磁化の関係と同じである。したがって,複素数を値とする秩序パラメーター(巨視的波動関数)y=|y|eiqによって超流動状態の性質を記述することができる。特に,位相の勾配∇qは超流動の流れ場に比例する。(p.4「液体ヘリウムにおける負の圧力と気泡発生」)

アハラノフ‐ボーム位相[Aharonov‐Bohm phase]
磁場中で電子を動かしたとき波動関数に現れる幾何学的な位相。ある閉曲線にそって動かした場合のアハラノフ‐ボーム位相は閉曲線が囲む領域を貫く磁束に比例する。一般に系のハミルトニアンがもつ外部変数を断熱的に変化させたとき波動関数に生じる幾何学的な位相のことをベリー位相 (Berry phase)とよぶが,アハラノフ‐ボーム位相はその典型例だといえる。(p.12「複合フェルミオン」)

平均場近似[mean field approximation]
多体系を考えた場合,外部変数を除けばすべての量には量子的/熱的なゆらぎが存在するが,その一部を平均値(あるいは期待値)で近似する方法。高次元の極限でよい近似となるものだが,ゆらぎの効果が顕著に現れる低次元強相関系においても,分数量子ホール系における複合粒子や高温超伝導体におけるスピン‐電荷分離の概念などと併用することにより,背景の物理を直観的にとらえるための有力な手法として用いられる。(p.12「複合フェルミオン」)

(量子ホール効果の)魔法数['magic' fractions]
分数量子ホール効果が顕著に観測されるランダウ準位占有率の特別な分数値。この分野の用語としては必ずしも一般的なものではないが,原文にある'magic' fractionsのニュアンスをもつ簡潔な訳語として採用した。分数量子ホール効果は純粋な多体効果であり,どのような占有率でそれが実現するのかを知ろうとすれば,本来は電子間相互作用の効果を理解する必要がある。したがって,複合フェルミオンのようにシンプルな描像がその占有率を正確に予言するという事実は驚き以外のなにものでもない。(p.12「複合フェルミオン」)

サーモトロピック液晶[thermotropic liquid crystal]
温度の降下にともない現れる液晶を指す。通常,物質は,ある圧力下で温度を降下させると,液相から固相への相転移を示す。この相転移にともない,空間の対称性は大きく変化する。液相内ではすべての方向が同等であり,また,すべての位置も同等である。他方,固体結晶では,方向の対称性・空間の一様性ともに限定されたものとなる(対称性の低下)。しかし,棒状分子等,構成分子の形状が球から大きく異なる場合には,液相と固相の中間相,すなわち液晶相が現れる。液晶相にも,分子配置の秩序はランダムでありながら,方向性の秩序のみが先に凍りついて出現する場合,さらには,配置秩序も(3次元ではなく)2次元的なもののみが先に現れる場合など,多様性がある。(p.32「液晶と炭素物質の意外な関係」)

リオトロピック液晶[lyotropic liquid crystal]
ある分子が,溶液中に溶質として溶け込んでいる場合,溶媒分子との存在比率に依存して分子間の相互作用は大きく変化する。そのため,濃度を増大させていくと,液晶相が現れることがある。その場合の液晶を指す。(p.32「液晶と炭素物質の意外な関係」)

原子間力顕微鏡[atomic force microscope,AFM]
試料表面の原子とカンチレバー先端(探針)の原子の間に働く,ファン・デル・ワールス力や化学結合力といった力を検出することにより,表面の原子サイズレベルの凹凸を像として観察することのできる顕微鏡。実際には,原子間力に限らず距離に依存して変化する力であれば何でもよく,たとえばこの顕微鏡を用いての磁気力検出による磁区構造の観察例などはよく知られている。ここではクーロン力を検出しポテンシャル分布を像にすることにより,電子の流れを観察している。(p.41「顕微鏡で見る電子の波」)

VLA[Very Large Array]
直径25mパラボラアンテナ27基からなる干渉計型電波望遠鏡で,アンテナは1辺20kmのY字型の上にならび,最大で40km直径の電波望遠鏡と同じ解像度をもつ。米国国立電波天文台(NRAO)に所属し,ニューメキシコ州にある。(p.43「電波天文学者,マンモス望遠鏡を計画中」)

MERLIN
英国マンチェスター大学ジョドレルバンク天文台に所属する干渉計型の電波望遠鏡で,大ブリテン島中央部の約200kmに散在する6台のアンテナ間の信号をマイクロ波リンクで結合している。(p.43「電波天文学者,マンモス望遠鏡を計画中」)

アレシボ[Arecibo]
プエルトリコにあるコーネル大学の電波観測所で電波天文学,電離層研究,レーダー天文学を行っている。主力装置が直径305mの固定球面を利用した電波望遠鏡/レーダーで,単一鏡として世界一の集光力を誇る。(p.43「電波天文学者,マンモス望遠鏡を計画中」)

SETI
Search for Extra‐Terrestrial Intelligence(地球外知的生命探査)の略。1960年に行われたオズマ計画に端を発する。その後もさまざまに実行されてきているが,電波領域の探査が主であった。最近では,光領域の探査も始まっている。(p.45「地球外生命探査に定常的な目」)

CP非対称[CP violation]
Cは電荷(charge)の反転,Pは空間の反転すなわちパリティ(parity)変換を意味する。自然界の4つの力,重力,電磁気力,強い力,弱い力のうち,弱い力は,C変換,P変換,そしてCP変換のいずれの変換においても形を変えてしまい,対称性が破れている。このうち,特にCP非対称によって,粒子と反粒子の崩壊反応に差が生じる。粒子と反粒子が同数あったはずの初期宇宙から,粒子だけの宇宙に進化していくには,このCP非対称が必要であるとされる。(p.46「Bファクトリーが迫るCP非対称の謎」)

小林‐益川理論[Kobayashi‐Maskawa quark mixing model]
原子核のベータ崩壊を引き起こす弱い力がCP非対称であることを,物質の最小構成要素(素粒子)であるクォークが6種類あるという仮説を立てることによって説明する理論。1973年,小林誠(高エネルギー加速器研究機構教授)と益川敏英(京都大学教授)によって提唱されたもの。当時は,3種類のクォークしか知られていなかったが,その後,残りの3種類も実験的に確認された。(p.46「Bファクトリーが迫るCP非対称の謎」)

ヤーン‐テラー効果[Jahn‐Teller effect]
多原子分子や固体中の原子団において,原子核の配置が幾何学的に高い対称性をもつときには,電子状態が縮退していることが多い。その場合に,原子核の配置が高い対称性から低い対称性の配置に変形して電子状態の縮退が解け,高対称性のときよりもより低いエネルギーの電子状態をとることによって系が安定化される現象を(静的)ヤーン‐テラー効果とよぶ。遷移金属酸化物などにおいて軌道秩序が生じる原因の1つである。(p.56「X線があばく電子軌道の秘密」)

交換相互作用[exchange interaction]
電子はフェルミ粒子であるため,多電子系の波動関数は電子の座標の入れ替えに対して反対称でなければならない。たとえば,スピン・軌道相互作用を無視して2電子系の波動関数を考えると,スピン1重項では軌道関数は対称に,スピン3重項では軌道関数は反対称になる。この2つの状態のエネルギー差を与えるものが交換相互作用である。スピン秩序と軌道秩序はこの相互作用を通じて密接に関係している。(p.56「X線があばく電子軌道の秘密」)


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