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今月のキーワード
素粒子の標準模型 /チャンドラー・ウォブル/大気角運動量(AAM)関数/コア・マントル非結合/ボルツマン・エントロピー/シャノン・エントロピー/コルモゴロフ‐シナイのエントロピー/非均質流体/乱流変調/混相流/ストリーク構造/原子噴泉/光子数のゆらぎ/官能基/摩擦力顕微鏡/自己組織化膜/ヨーロッパ南天天文台/アタカマ・ミリ波干渉計計画/究極望遠鏡計画

素粒子の標準模型[the standard model of elementary particle physics]
既知の素粒子の相互作用のうち,重力を除く3つの相互作用(電磁相互作用,弱い相互作用,強い相互作用)をゲージ理論を基礎に自己矛盾なく説明する理論で,10−18m以上(100GeV以下)で高い精度で成り立つことが加速器実験により検証されている。一方,この理論のもつ素粒子の質量の起源となるヒッグス機構および粒子・反粒子の非対称性の起源については,いまのところ確定的な検証はされておらず,今後実験的な検証がされることが期待される。また,無矛盾でかつ高い精度で検証されているこの理論もさまざまな不完全さ(重力を含まない,理論の階層構造を説明できない,ニュートリノの質量の問題等々)をもち,標準模型を越える理論(beyond the standard model)の検証が待望されている。(p.4「新世紀の素粒子物理」)


チャンドラー・ウォブル[Chandler wobble]
1890年代に緯度変化の観測から発見された地球自転軸の自由振動で,約14か月周期をもつ。チャンドラーの名は発見者の名前に由来している。チャンドラー・ウォブルも巨大地震などで引き起こされるいわゆる地球自由振動の仲間に属するが,チャンドラー・ウォブルはそれらの中で最長の周期をもっている。その結果,チャンドラー・ウォブルのふるまいはマントルの粘弾性的性質を知るうえで貴重なデータを提供している。(p.13「地球自転軸の自由振動の謎」)

大気角運動量(AAM)関数[atmospheric angular momentum function]
地球回転変動は主として大気,海洋,陸水などの地球表層流体とマントルとの間の角運動量交換で生じている。AAM関数とは数値天気予報の初期値となる全球客観解析値に基づいて見積もられた大気角運動量をマントルの平均角運動量で無次元化した値のことである。現在では,海洋角運動量(OAM)関数,陸水角運動量(HAM:hydrologic angular momentum)なども提案されている。(p.13「地球自転軸の自由振動の謎」)

コア・マントル非結合[core‐mantle decoupling]
数十年程度未満の時間スケールでのマントルとコア(流体外核)との間の角運動量交換の強さ(結合の強さ)が小さいことを表現したものである。しかし,時間スケールが数十年以上になると,コア・マントル結合は,コア・マントル境界の凹凸による地形結合トルクや電磁結合トルクなどによって徐々に強くなり,地球自転速度の数十年変動をもたらす。(p.13「地球自転軸の自由振動の謎」)

ボルツマン・エントロピー[Boltzmann entropy]
熱力学第2法則によって導入された熱力学エントロピーは,物質の種類を決めればその関数形が決まる。このとき,平衡状態に対応するミクロな状態数の対数をとりボルツマン定数を乗じたものが,熱力学エントロピーと一致すること(=ボルツマン公式)が,統計力学によってわかっている。この公式によって与えられたエントロピーをボルツマン・エントロピー,あるいは,統計力学的エントロピーとよぶ。(p.20「カオス動力学から熱力学構造へ」)

シャノン・エントロピー[Shannon entropy]
複数の事象が等確率で発生する状況が,事象を見る前にはもっとも「不確か」だと考え,その不確からしさの度合を,独立事象に対して加法的になるように定義した量をシャノン・エントロピーとよぶ。また,不確かであればあるほど,結果として生じた事象にはより多くの「情報」があると考え,シャノン情報量ともよぶ。情報論では,この量を用いて符合化に関する有用な定理を示す。統計力学の平衡分布に対するシャノン・エントロピーは,統計力学エントロピーと等価である。(p.20「カオス動力学から熱力学構造へ」)

コルモゴロフ‐シナイのエントロピー[Kolmogorv‐Sinai entropy]
有限の精度で力学系の状態を考える。時間発展によって,精度以下に埋め込まれていた情報が精度上に現れ,かつ,最初にあった情報は無価値になっていく。初期にあった情報量が単位時間あたりに損失していく割合をシャノン・エントロピーを用いて,精度の選択と関係ないように定量化したのが,コルモゴロフ‐シナイのエントロピーである。情報が単位時間あたりに精度上に現れる率という意味で,情報生成率ともよばれる。(p.20「カオス動力学から熱力学構造へ」)

非均質流体[heterogeneous fluid]
場が均質であるかどうかは観察するスケールに依存するので,明確な定義を与えることは難しい。分子運動とは独立に巨視的な観点から物体の挙動を論じるのが連続体力学である。液体や気体はそれぞれ連続体としての均質な流体である。ここにさまざまな添加物が入っても混合物として連続体的にとらえるとき,力学挙動に影響を及ぼすような界面を内部に含んでいる場合を非均質流体とよぼう。その典型的な例として混相流体がある。(p.28「非均質流体におけるパターン形成と乱流変調」)

乱流変調[turbulence modulation]
乱流における変動の強さは,境界形状,体積力,添加物などによって著しい影響を受けるが,その機構は非線形性をともなうため非常に複雑で予測しがたい。特に,混相流の分野では,分散相(気泡,液滴,固体粒子)が加わることによる連続相の乱れの増減の問題を乱流変調とよんでいる。(p.28「非均質流体におけるパターン形成と乱流変調」)

混相流[multiphase flows]
物質の状態は気相・液相・固相に区別できるが,そのうちの複数の異なる相が混在し,相互に作用し合いながら運動している流れを混相流または多相流という。広義には,水と油のような明確な界面をもつ液液二相流も含まれる。自然界にも,雨(気液),流砂(固液),火砕流(固気)など,多様に見られる。これらに対して,気体または液体だけの流れを単相流ということもある。(p.28「非均質流体におけるパターン形成と乱流変調」)

ストリーク構造[streak structure]
平板に沿って流れる乱流の壁近傍において,トレーサーを加えて流れを可視化すると,主流方向に細長い縞状の構造が観察される。その幅は,流体の粘性と壁面の摩擦で整理すると普遍的な値になる。また,その挙動には一定のパターンがあり,乱れエネルギーの大半はここから供給される。これはクライン(Kline)らの研究(1967)により見いだされ,乱流に潜む組織的な構造として注目された。(p.28「非均質流体におけるパターン形成と乱流変調」)

原子噴泉[atomic fountain]
磁気トラップにため込んだ原子を解放して重力によって落下させ,共振器中に導入する方法があるが,この場合,速度は磁気トラップと共振器の距離で決まってしまう。逆に磁気トラップを下に配置し,下方より原子に共鳴する波長のレーザー光線を当てて原子に吸収させ,そのとき光からもらう運動量によって原子を上方に打ち上げる方法もあり,原子噴泉または原子噴水とよばれている。1個の光子で毎秒数センチメートルの速度を与えることができるので,重力を用いるよりも遅い原子を供給することができる。(p.37「たった1つの光子が原子をトラップする」)

光子数のゆらぎ[photon number fluctuation]
共振器内で原子と光子が強く相互作用しているとき,原子は光の吸収,放出を頻繁にくり返している。これを光の方の立場からみれば,光子が消えたり生れたりしていることになり,光子数のゆらぎをもたらす。またこのとき,光の運動量の反跳によりランダムな力が原子に働き,一種の摩擦として作用する。(p.37「たった1つの光子が原子をトラップする」)

官能基[functional group]
化合物の性質は,構成原子間の結合形態によって大きく変化する。たとえば,炭素原子に結合している水素原子は無極性で安定だが,酸素原子に結合している水素原子は不安定でイオン化しやすい。そこで,メチル基(‐CH3)や水酸基(‐OH),アミノ基(‐NH2)など特徴的な性質を示す原子団を性質を発現する最小単位とみなすことがある。これらの中で,水酸基やアミノ基など反応性の高い原子団を特に官能基とよぶ。(p.52「pHと『濡れ』の関係」)

摩擦力顕微鏡[friction force microscope]
原子間力顕微鏡の変種の1つで,水平力顕微鏡ともいう。通常の原子間力顕微鏡が,探針の上下変位から固体表面の地形像を得るのに対し,摩擦力顕微鏡では,探針の水平方向の変位(探針が付いているカンチレバーのねじれとして測定する)から,表面の摩擦像を得る。摩擦係数の違いから,表面原子の種類やその荷電状態を特定できるとされている。しかし,原子スケールでの摩擦力の発生のメカニズムは未知の部分も多い。(p.52「pHと『濡れ』の関係」)

自己組織化膜[self‐assembled monolayer]
膜形成分子を溶かした溶液に固体表面を浸すだけで,分子が自発的に固体表面上に吸着することで形成される単分子膜のこと。溶液中での自発的な吸着を利用しているので,水面に浮かべた膜形成分子を圧縮して無理やりすし詰めにして単分子膜をつくるラングミュア‐ブロジェット(Langmuir‐Blodgett)法と違って,大面積の均一膜が作製できる。さらに,固体表面に吸着性の異なる領域をあらかじめ設けておくと,その模様に沿って単分子膜が形成されるため,膜の形を自由に設計することができる。(p.52「pHと『濡れ』の関係」)

ヨーロッパ南天天文台[European Southern Observatory]
独・仏・伊・スイス,スウェーデン,デンマーク,オランダ,ベルギーの8か国からなる欧州国際機関。宇宙の南半分を観測するため1963年に当初6か国で設立され,南米チリのアンデス高原にラシヤ天文台,パラナル天文台を建設し運営している。口径8mの光学赤外線望遠鏡VLT4台を主力装置として,これらの望遠鏡を光干渉計として結ぶ計画も進めている。本部はミュンヘン郊外のガルヒングにあり,職員総数は約500名に及ぶ世界最大の天文台である。(p.56「ESO加盟と望遠鏡閉鎖でゆれる英国天文学界」)

アタカマ・ミリ波干渉計計画[Atacama Large Millimeter Array]
口径12mの電波望遠鏡約100台を結ぶ電波干渉計計画。チリのアタカマ高原(海抜約5000m)の10km四方の平地に展開する。生れたての星や銀河に含まれる塵からのミリ波サブミリ波の電波放射をとらえる。米欧間の協議が進んでいるが,早くから現地の観測条件の調査を進めてきた日本も加わり,日米欧三極の国際プロジェクトとして推進する方向で協議が進められている。(p.56「ESO加盟と望遠鏡閉鎖でゆれる英国天文学界」)

究極望遠鏡計画[OverWhelmingly Large Telescope]
欧州南天天文台のグループが検討を進めている口径100mの超大型望遠鏡構想。直径2m級の鏡を約2000枚敷き詰めて,有効口径100mの可視光・近赤外線用望遠鏡にする。補償光学技術の高度化が鍵となるが,実現すれば,現在活躍中のすばる望遠鏡など地上8m級望遠鏡や2.4mハッブル宇宙望遠鏡が観測できる28等級の天体より100倍暗い38等級の天体の観測が可能となる。(p.56「ESO加盟と望遠鏡閉鎖でゆれる英国天文学界」)

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