index 1999index 9月号目次 9月号目次


原子凝縮体の干渉縞の観測
怪しげな会合
メタステーブルを始めたきっかけ
BECに光を当てる
スピン自由度をもったBEC
原子線ホログラフィー
原子数の数え方
原子レーザーの強さ
原子線ホログラフィーの発展
表面のプローブとしては?
物理の基本への貢献

原子数の数え方

―論文を見ますと,“何個の原子をトラップした”というふうに書いてありますが,あれはどういうふうな手段で個数を数えているんですか。

上妻:それはボース凝縮の場合ですか。

―そうです。

井上:そのまま写真を撮ろうとすると,光学密度が高すぎて込み入っているのですが,トラップを切ってやって,ぱーっと原子が飛び出して薄くなったところに共鳴光をあててその吸収される様子を写真に撮るわけです。光の散乱の断面積は分かっていますから,光の吸収され具合をそれで割ってやれば,原子数を測ることができます。だいたい典型的には10の5から7乗とか,もっと少なくても十分数えられます。水素の場合はまた全然違うやり方でとっていますが,ルビジウムなどふつうのアルカリ原子の場合はそういう方法ですね。
上妻:あの当時は,ふつうに光を当てたらそれぞれ散乱断面積みたいなものがあって,計算した通りの数だって話でした。つい最近まで僕もそう思っていたんです。井上さんの結果をみると,そういうところも疑うというか,そういうところにも新しい物理が潜んでいるわけですよね。


原子レーザーの強さ

―レーザーというと素人の考えでは,コヒーレンスがよくて,収束性がよくて,それだけじゃなく非常に強い光というイメージがあるんですよ。それからすると,原子レーザーというのは強くはないですよね。

上妻:そうです。原子を常時供給しているわけではないので,もともともっている106個とかの原子をすーっと出しているだけですよ。そういう意味では,まだインテンスとはいえないですよね。まあ密度は高いといえば高いですが。

―それはインテンスになる,なっていくんですか?

井上:インテンスといえばインテンスなんじゃないんですか。単一モードあたりの数という意味でいえば。
上妻:ただそれをアプリケーションとしてどこかに当てて堆積させるとかしようとしたときには,単純な数としては少ない。
清水:いまの原子レーザーはキャビティダンパーをつかっているだけだから。光でいうと,すでに共振器のなかにある光をぱっとあけて全部採り出しているだけだから,それ以上のものはでない。だから共振器のなかに光,今の場合,ボース凝縮した原子を何回ためこんでおけるかが,いまのところ速い人でも20秒以上かかっていると思いますよ。

―それはもうこれ以上速くはできない?

清水:連続的にレーザーと同じようにつぎ込みながらパルスで出してもいいけれど,まだいまはできていない。だから,完全にこっちに入ってこっちから出ていくという完全なオープン系は作れていない。

―それは原理的に難しいのでしょうか。

清水:まず,衝突でそういう系がつくれるかなというのが1つあります。連続でやるときには,BECを蓄えながら片方では逃がす系が必要なわけですよね。ダンプするときに光でやるとこれは自然放射なんだけれども,自然放射光というのはまた再吸収されてしまうので,始めから光の波長より非常に小さな共振器でやらないとだめだということになっている。それでもこれについて理論やっている人はいるんですよ,ごくわずかだけれど。いまのところ本気で実験をやっている人はいないんじゃないかな。
いま,要するにコヒーレンス状態を作るのに使っているのは衝突ですよね。原子を衝突で逃がして,それで連続系ができるとなれば,わりと早くできる可能性はあるかもしれない。
井上:エバポレーションということ自体が,いま基本的に捨てることで冷やしているので。
清水:ただ,そこでほんのわずか,たとえば冷却原子を入れてつぎ込めれば…。つぎ込む方も連続的にやらなければならないけれども。
井上:それはもう充分に冷えたものをということですか。
清水:つぎ込むときに,1つ非可逆過程がいるわけですよ。
上妻:ボース凝縮の,ダブルMOTじゃなくて,ダブルBECみたいにしておいて,上で凝縮させて下で落として,そのときだけカップルさせるというのなら考えられるかもしれない。
清水:2次元でやっておいて,途中で少しずつ周波数を変えてこっちから送り込んでだんだん冷やしていけば,それができるかもしれない。

―加速器の逆の減速器の原理みたいですね。

清水:できるね。
上妻:まあ,あとは五神先生,香取先生,そして井戸さんたちがやっているストロンチウムの実験のように,単純にものすごい速さでBECができれば,ヘルツオーダー*28 のパルス原子レーザーになりますね。あれは実際どのくらいの時間で,位相空間密度0.1まできているんですか。100ミリ秒くらいですか?
井上:そうですね。
上妻:そうすると10ヘルツとかで出せるわけですよね。


原子線ホログラフィーの発展

―清水先生のところの電場をかけてやる実験はいかがですか*29

清水:電場ですか? 藤野さんからまたよいアイデアをもらって,すぐ作ってもらえると思いますけれど。
バリエーションがたくさん考えられるけれど。1つは細かい方へもっていくわけですけれど,分解能をあげる。もう1つは電場でリアルタイムで動かそうというのがある。
あともう1つ考えているのは電子のホログラフィー,あれとまったく同じことをやろうと。あれは何をやるかというと,中のものの性質を調べるために,まず電子の干渉パターンを何かで記録してホログラムにして,それを光で見て再生してみる。それを原子でやろうかなと。物質の表面で弾性散乱させて干渉パターンを見るとか。表面で反射させてもホログラムができるということは,すでに特許を申請しているんですよね。NECと共同で。実際にはできていないんだけれども(笑)。それは,だから上妻さんの“干渉を見る”という話とだいたい同じですけど。
井上:それはどちらかというと,原子をプローブとして使うみたいな発想ですか。
清水:だから参照原子線と両方入れて干渉縞を記録しておいて,それを後で光で再生してみればいいわけです。電子線ホログラフィーとまったく同じことができると思います。


表面のプローブとしては?
井上:全体として原子をいろんな新しい表面を見るプローブとして使う,BECも含めて,可能性はどうなのでしょう。
上妻:それは僕も知りたいな。
清水:たぶん基底状態の原子を使えばできると思います。
井上:有望でしょうか。
清水:有望でしょう。電荷がないからいろんなものが当てられるし,スピンゼロのを当てることもできるし,スピン1/2のものもできるし。
ただメタステーブルがなかなか弾性散乱してくれない。かなり鋭角で当てたことがあるんだけれども1%くらいしか帰ってこない。
井上:むしろ完全な基底状態,それこそBECかなんかを落としてみるというのは?
清水:だけどその干渉パターンを何で見るかということになると,今度は…。
井上:上妻さんのいってたように重ね合わせるとか。
清水:重ね合わせるけれど,それをまた光で見る? そうすると分解能が限られるし。
井上:その後だんだん広がっていけば,といわけにはいかないか。
清水:メタステーブルのいい点は,とにかく荷電粒子の検出器がそのまま使えるということかな。そこがものすごくいいところですね。
物理の基本への貢献

―それで,アハラノフ-キャッシャー効果*30 とかは見る予定はないのですか。

清水:それはスピンをもっているやつを撮さないとだめだね。
上妻:アハラノフ‐ボーム効果とかアハラノフ‐キャッシャー効果というのは,いまそれに対してどういうことが求められているのでしょうか。
ボーム効果の場合には,基本的な物理量として何なのかというのを明らかにするということで,日立の外村先生が電子線のホログラフィーと超伝導体を使ってやっていますけれども。キャッシャー効果もボーム効果も,応用というよりは理学の追究ということで重視されていると感じました。さらに問題になっているところというのは何でしょう?

―アハラノフ-キャッシャー効果に関してはニュートロンで見えたということがいわれていますが,ちょっと怪しいという話が出ていまして,もっとはっきりしたもので見られないだろうか,ちゃんとした実験はできないだろうか,という話はあるんですね。スピンをもっていてチャージをもってない粒子が,電場というより静電ポテンシャルによって位相が変わる。アハラノフ‐ボーム効果に対して双対な効果というのがあるというのをきちんと証明したことになるわけですよね。

上妻:まだはっきりした実験結果が出てないということなんですか。ボーム効果の方は,いちおうはっきりしていると解釈していいのでしょうか。あれもまあ疑おうと思えばどこまでも疑うことはできると思うんですけれども。

―あれは相当はっきりしてると思いますね。超伝導体を用いたうまい系が作れましたからね。

上妻:で,キャッシャー効果の方は,いまだはっきりはしていないと。

―ええ。ですからBECを使って,そういうことを日本でできれば,外村さんと2人でノーベル賞がもらえるんじゃないですか。

上妻:そういった物理の基本には貢献したいですね。さっきの清水先生の2原子相関のような実験ができるのはうらやましいなあ。あれだったら寝ないでもやりたいなと思いますね。しまった,へんなことをいってしまった(笑)。
清水:つぎは共同研究者として登録しておきますよ(笑)。

―本日はお忙しいなかありがとうございました。