日本文化の神髄がここにつまびらかになる
日本文化事典
A5判・800頁  本体20,000円+税
ISBN978-4-621-08979-8

[編  者]
神崎 宣武
(旅の文化研究所所長)
白幡洋三郎 (国際日本文化研究センター名誉教授)
井上 章一 (国際日本文化研究センター副所長)

[編集協力](※50音順)
荒木  浩 (国際日本文化研究センター教授)
井上  俊 (大阪大学名誉教授)
江原 絢子 (東京家政大学名誉教授)
長田 俊樹 (総合地球環境学研究所教授)
三宅 宏司 (武庫川女子大学名誉教授)
山本 志乃 (旅の文化研究所)

本書の特色

執筆陣は各分野の最前線で活躍する研究者や実務家
日本独自のさまざまな伝統文化に関する重要キーワードを図版も交えて興味深く解説
海外から取り込まれて独自の日本文化になったテーマも取り上げる
現代まで継承されている日本文化のみを中項目主義で解説
ワンテーマ見開き2/4ページ完結で、どこからでも興味深く読める
日本文化を伝承するために必要不可欠な情報を提供




刊行にあたって

 “文化”については、さまざまな分野でそれぞれの解釈がなされてきた。ゆえに、原始文化・貴族文化・江戸文化・民俗文化・女性文化、衣文化・食文化・建築文化・信仰文化・芸能文化などというよび分けもなされてきたのである。あげく、文化人・文化住宅・文化都市・文化交流・文化創生などと、ある種便利にも使われてきた。
 民俗学や文化人類学における“文化”は、生活様式を総称して用いられることが多い。相互に関係する生活の諸要素を包括的に捉えようとするものである。ちなみに、文化人類学の父とも称されるE.B.タイラー(イギリス人、1832-1917)は、「知識、信仰、芸術、道徳、法律、慣習、その他、人が社会の成員として獲得したあらゆる能力や習慣の複合的総体である」(『原始文化』の冒頭)、といっている。
 ただし、それは“文明”の概念とも共通する。文化に限る場合、さらに「特定の社会」とことわらなくてはならない。特定の社会での伝承が文化であり、全世界に共有できる合理性や利便性の総体が文明なのである。
 また、さらに、「時代を経て伝承されてきた」とことわらなくてはならない。それが“流行”との違いとなる。もっとも、その流行については、かつて同様の現象があって、かたちを変えて再現されるものもある。そして、そうした流行現象が何代にもわたって続くと、文化ともなる。
 ここでは、日本列島という自然環境のなかで適応してきた日本人の有形無形の慣習とその様式を“日本文化”とする。平たく言い換えれば、歴史を通じて澱(おり)のようにたまった日本人独特の“クセ”のようなもの、である。
 当然ながら、他国の人々からは奇異にみられる事象も多い。不可思議とみられる事象も多い。
 例えば、正月を迎えると、神社に詣でたその足で仏寺にも詣でる。初宮や七五三では宮参り、盆供養では寺参り。教会での結婚式もいとわない。こうした諸行事を私たち日本人は、ほとんど無意識に行なっているのである。それは、平安後期から始まる「神仏習合」という信仰形態を踏襲するものだが、その神仏習合ということ自体が、他国の人々には不可解なのだ。特に、キリスト教やイスラム教など一神教文化圏の人たちにとっては不可解なのである。
 しかも、明治政府は神仏判然令(明治元〈1868〉)をもって神仏分離をはかっているのである。以来、宗教としては、神道と仏教は別途な歩みをしている。にもかかわらず、民間においては、その区別をさほどに意識をしていないのだ。旧家では、神棚と仏壇がそのまま同列に伝えられているのである。
 なお不可解とされるのは、多くの日本人が宗教をたずねられたとき、「無宗教」と答えていることである。たしかに、世界の宗教規範とは違う。ここは、「ニッポン教」と答えるしかないところだろうが、私たち日本人にはその認識が希薄といわざるを得ない。
 「おじぎ」も、私たち日本人が共有してきた身体動作である。私たちは、何かにつけておじぎをする。そのなかでも、相互におじぎをする、それも何度も繰り返すのが日本的な特徴である。
 宗教的な作法としての拝礼は、古今東西に共通する。それは、立礼であれ座礼であれ、投地礼であれ、神に対する敬虔さの表現として共通する。また、神に準ずる王に対しても共通するところがある。
 しかし、相互礼となると、世界にほとんど類例がない。対面しての挨拶に伴ってのおじぎで、欧米社会での握手に相当する。さすがに最近はみられなくなったが、握手をしながら、ペコペコとおじぎをする日本人も、かつては多かった。
 もっとも、これを卑屈な姿勢と捉えるべきではなく、日本文化として正当に評価すべきである。武家礼法が基になっての相互礼とみてよかろうが、明治期になって学校教育を通しての普及が今日につながる。その顕著な例として、柔道・剣道・相撲・空手など、武道は、ことごとく「礼に始まり、礼に終わる」。また、学生野球やソフトボールもそれに準じて今日に伝わる。
 衣と住については、夏仕様が優先されてきた。吉田兼好(1283頃-1352頃)が「家の造りやうは夏を旨とすべし。冬は如何なるところにも住まわる。あつき頃、わろき住居はたえがたき事なり」(『徒然草』第55段)といったようにである。それは、高温多湿で蒸し暑い夏場の気候に対応してのこと。通気性を重んじた和装や民家がそうであった。現在でも、私たちは、家に帰れば履物を脱いで裸足になりたがる。そして、旧来の下駄や草履に加えてスリッパ・サンダルや五本指の靴下までつくってきたのである。
 “文化”に優劣はない。それぞれの文化事象がしかるべき根拠をもって生まれ伝わってきたのである。自国の文化を理解することは、他国の文化を尊重することになる。不幸にして、戦時下ではその意識や姿勢が後退する。二度とあってはならないことである。また、“文化”は、古来不変のものではない。時代とともにさまざまな理由で変化変容もするものである。そこで、たえず「元のかたちはどうだったか」をたどることが大事になる。私たちは、そうして次世代への伝承もはからなくてはならないのである。
 本書が、そうした手引書になれば幸いである。
編者代表 神崎 宣武




目  次

1章 芸能
能と狂言/文楽(人形浄瑠璃)/歌舞伎と地芝居/田楽(田遊び)/盆踊り(風流)/神楽/剣舞と棒踊り/日本舞踊/YOSAKOIと和太鼓/芸妓と太鼓持ち/絵解きと紙芝/講談と浪曲/落語/声明(松明)と読経/小屋と寄席/漫才/手品と足芸/大道芸/のど自慢と紅白歌合戦/少女歌劇/新国劇と大衆演劇/【Colum】役者と勧進元/神事と芸能

2章 美術
浮世絵/盆栽/日本庭園/墨絵(水墨画)/蒔絵(漆器)/色絵(磁器)/茶道具/西陣織/仏像彫刻/仏画と神道絵画/書道と書/金細工と銀細工/大和絵と日本画/絵巻物/障壁画/床の間と掛軸/日本刀と甲冑/【Colum】目利き/日本画と洋画

3章 言葉
話しことばと書きことば/仮名/漢語と大和ことば/男ことばと女ことば/敬語/上方ことばと江戸ことば/お国ことば/ことわざ/忌み言葉/符帳/罵声とあやまり/訓辞と謝辞、祝辞と弔辞/季語/幼児語と若者語/「アイウエオ」と「いろは」/外来語/音と訓/ラジオ・テレビと標準語/擬音語と擬態語/【Colum】言葉あそびと駄じゃれ/言い回しの難しさ

4章 象徴
天守と城郭/義理と人情/恥/和の精神/武士道/華道/茶道/着物/鳥居と山門/神輿と山車/相撲と国技/ホンネとタテマエ/盃事/天皇/元号/日の丸と君が代/位牌と遺影/家元と屋号/フジヤマとゲイシャ/三種の神器/数の吉凶/赤と白/家紋/【Colum】富士山/縮み嗜好/動植物のシンボル化

5章 飲食・食文化
とんかつとカレーライス/B級グルメ/すし・鮨・鮓・寿司/そば・うどん/刺身/醤油と味噌/昆布とかつお節/鍋料理/すきやき/天ぷら/丼もの/吸物・味噌汁/香の物/酒・肴/米の飯/おかず/おやつ/菓子と茶/餅/豆腐と納豆/弁当/精進料理/おせち料理/ワインとチーズ/ワン(椀・碗)・皿と箸・匙/【Colum】銘々器と取り皿/化学調味料と即席麺/包丁と板前

6章 住居
大黒柱/土間と板間/障子と襖/座敷と納戸/ござと畳/囲炉裏と火鉢・こたつ/床の間/井戸と竈/納屋と蔵(倉) /風呂と便所/軒と縁側/寝殿造と書院造/行灯と提灯/塀と垣根・生垣/町家と長屋/武家屋敷/天井と壁/鴨居と敷居/草屋根と板・瓦屋根/雨戸・網戸/【Colum】民家/家相と風水

7章 文化財
世界遺産/国宝/人間国宝/民俗文化財/重要無形民俗文化財/文化財としての美術/文化財としての建築/文化財としての工芸/古墳/名勝と名所/天然記念物/日本三景/町並み/国立公園/記録文化財/家系図と写真帳/大名屋敷・大名庭園/名刹・名家・名跡/産業遺産/【Colum】文化財保護の意識/遷宮と技術伝承

8章 衣服
下駄と草履、足袋/長着(単と袷 )/帯と襷/羽織と袴/紋付と訪問着/浴衣/開襟と襟刳り/ダボシャツとステテコ/手拭いと鉢巻/褌と腰巻/黒の礼服/半纏と法被/振り袖と貸衣装/制服/帽子と冠/モンペと作務衣/前掛けと割ぽう着/【Colum】和服から洋服へ/男装・女装

9章 日常習慣
おじぎと握手/上履き/手締め/拍手と万歳/温泉と銭湯/交番/火の用心と消防団/塾/触れと回覧板/新聞配達/談合/正坐とあぐら/日記/みやげと名物/手形と為替/【Colum】旬/時

10章 通過儀礼
法事/受験と入学/修学旅行/卒業と就職/お宮参り(初宮)/元服と十三参り/成人式/初誕生/七五三/初湯/厄年と厄払い/婚礼と披露/新婚旅行/長寿儀礼/銀婚と金婚/定年と隠居/【Colum】若者宿、娘宿、隠居屋

11章 年中行事・しきたり
家の祭り/地域の祭り/縁日/終戦記念日/こどもの日/節分/節供 /正月/盆/春分と秋分/八朔と虫送り/除夜と初詣/花見/新年会と忘年会/海開きと山開き/中元と歳暮/年賀状と暑中見舞い/クリスマス/バレンタインデーとホワイトデー/誕生会/女人禁制/【Colum】和暦と洋暦/祝儀と不祝儀

12章 工芸
陶器と磁器/藍と紅/彫りもの/細工もの /編組品/絹と木綿/箪笥/神棚と仏壇/かわらけ・土人形/木器・漆器/截金/籠と笊/水引/紙細工/革細工 /鉄細工と銅細工/木工/【Colum】職人/名工と銘柄

13章 産業技術
カメラとビデオ/時計/磁器とセラミックス/軽自動車/新幹線/自動販売機/自転車とオートバイ/トランジスタラジオ/官営工場と町工場/下請けと孫受け/製鉄と造船/ハイビジョン /黒部ダムと本四架橋/絹、化繊、合繊/養漁産業と漁業と養殖/養殖漁業産業/【Colum】産業と観光/人力車/農業技術の変遷/水車

14章 遊戯
花札/拳 /お手玉と鞠つき/凧あげ/綱引き/カマクラとトロヘイ/折り紙/あやとり/将棋と囲碁/鬼ごっこ、かくれんぼ/テレビゲーム/マンガとアニメ/パチンコ/カラオケ/カルタとり/弓射と的あて/ままごと/【Colum】貴人の遊び

15章 音楽
謡/詩吟/数え唄/民謡/音頭/祝い唄/甚句/長唄・小唄・端唄/新内とギター流し/童謡と子守唄/雅楽/琵琶/三味線と琴/笛と尺八/鐘と太鼓/浄瑠璃と義太夫/演歌と歌謡/Jポップ/【Colum】ヨナ抜きと和音階/合唱

16章 運動競技
体育/軟式球技/高校野球と甲子園/プロ野球と社会人・大学野球/柔道とジュードー/水練と水泳/剣道と弓道/古武道/合気道/空手道/薙刀と弓/武道における礼法/駅伝/運動会/ラジオ体操/プロ格闘技/応援団/くらべ馬と競馬/競艇と競輪/【Colum】「道」の精神性と国際性/国体とオリンピック

17章 文芸
物語/和歌/神話/連歌/俳諧と俳句/川柳と落書/説話/草子文藝/おとぎ話/季語と俳句/漢詩と漢文学/芥川賞、直木賞/小説/官能文学/女流文学/弟子、書生/随筆/軍記、戦記/【Colum】挿し絵/出版産業の歴史

18章 信仰
神さまと仏さま/社と寺/払いと禊ぎ/火(煙)と水/墓参りと精霊流し/鬼と天狗/ヘビとキツネ/遍路と巡礼/絵馬と千社札/七福神と恵比寿・大黒/盆と正月/式場と斎場/鬼は外、福は内/祈祷と神楽/おみくじとお守り/たたりと封じ/鈴と拍手/【Colum】キリスト教の日本(文化)化/山岳信仰





組見本









丸善出版(株)