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今月のキーワード
エバネセント波/ 免疫アッセイ/ 準粒子/光共振器/ ラビ分裂/ 薬物送達システム/レイノルズ数/ 自己組織化構造/ 共焦点顕微鏡/RNA転写/ ミセル/ シーソー機構

●エバネセント波[evanescent wave]
屈折率が異なる透明な誘電体の界面および金属表面で生じる,局在した光の場のことをさす。たとえば,プリズムの内部から表面に向かって,入射角度が臨界角を越えた条件で光が入射すると,全反射により透過光強度は0 となる。しかし,ガラス表面においては,強度が表面からの距離に対して指数関数的に減衰する光の場が形成される。貴金属の表面においても,伝播型表面プラズモンおよび局在表面プラズモンに起因するエバネセント波が形成される。(p.4「ナノプラズモニクスの物理と応用」)

●免疫アッセイ[immunoassay]
臨床検査においては,血液,尿,便等のサンプル中に存在するバイオマーカー( 被検体)を検出するために,免疫系において重要な役割を果たす抗原抗体反応を用いる。抗体分子は抗原を特異的かつ強靭に結合することから,アッセイに欠かせない要素である。抗原抗体反応を検知するためには,蛍光および光の散乱,吸収が頻繁に使われることから,近年においては上記のエバネセント波と組み合わされることによる高感度化が図られている。(p.4「ナノプラズモニクスの物理と応用」)

●準粒子[quasi-particle]
そのふるまいが,ある系のなかで1 つの粒子として特徴づけることのできる離散的な現象のことをいう。たとえば正孔は状態中に電子が欠けていることによって構成される準粒子であり,電子‐正孔の対がクーロン力によって束縛状態となったものもまた準粒子である。量子多体系においては,フォノンやプラズモンといった集団励起モードに対する単一粒子に類似する励起を準粒子として記述する。(p.13「励起子ポラリトンの凝縮体」

●光共振器[optical cavity]
光の定在波を内部につくりだすための光学ミラーの配置のことをいう。共振器を構成する2 つのミラー間隔を共振器長といい,その長さに対応した波長の光の電場が光共振器内に閉じ込められる。レーザーを構成する主要部分であり,光共振器内に置かれたレーザー媒質を励起して反転分布を形成し,共振器モードへの誘導放出を起こすことで,特定のモードにおいてレーザーを発振させることができる。(p.13「励起子ポラリトンの凝縮体」

●ラビ分裂[Rabi splitting]
量子力学的な2 つの状態間に結合があるときに,その系に生じる新しい固有状態間の結合による固有エネルギー差の増大をラビ分裂という。励起子ポラリトンにおいては,励起子状態のエネルギーを基準として,離調0 の励起子状態と共振器光子状態の間に結合( Ω )があるとき,系の固有状態はエネルギー+Ωの上方ポラリトンとエネルギー−Ωの下方ポラリトンとなり,2 Ωの大きさのラビ分裂が生じる。(p.13「励起子ポラリトンの凝縮体」)

●薬物送達システム[drug delivery system, DDS]
薬剤には効果を発揮する最適な濃度範囲があり,それより濃いと副作用が顕著になる。このため,薬剤が血流に乗って全身にまんべんなく分布するよりも,患部に薬剤を集中させることが好ましい。そのための有力な手段が,薬剤をカプセルに封じ込め,このカプセルを患部に集中させた後に薬剤を放出することである。将来的には,病変細胞が示す異常分子の時間パターン変化を識別し,適切な時間遅れをもって薬剤を放出する人工細胞様のシステムが開発されることが期待される。(p.22「生命をつくる」)

●レイノルズ数[Reynolds number]
粘性力の大きさに対する慣性力の大きさの比で定義される無次元数。細胞スケールではレイノルズ数が低く,発現する物理現象において粘性が支配的であることを意味する。(p.22「生命をつくる」)

●自己組織化構造[self-assembled structure]
自己組織化とは,自発的に秩序が形成して時間的・空間的にある規則的なパターンや構造が形成される現象をさす。これによってできた構造を自己組織化構造といい,自然界では雪の結晶,シマウマの模様などにみられる。工学的には,自己組織化単分子膜やDNAナノ構造などに応用されている。(p.22「生命をつくる」)

●共焦点顕微鏡[confocal microscopy]
x - y 平面およびz 軸上( 深さ方向)の分解能が高い画像を得ることができる顕微鏡。試料面をスポット状のレーザービームで走査し,試料から発せられる蛍光をピンホールを通して検出することにより,焦点面以外からの光を排除し,焦点面のみの信号を検出器に集める。細胞や組織のように厚みのある試料に対して任意の断面像を得ることができるほか,通常の試料についても高コントラストかつ高解像度の観察像を得ることができる。(p.33「マイクロ流体デバイスによる蛍光観察実験の効率化」)

●RNA転写[RNA transcription]
DNAの塩基配列情報をRNAの塩基配列情報へコピーすること。RNAポリメラーゼとよばれる酵素の働きにより,ある遺伝子のDNA塩基配列を鋳型としてRNAが合成される。転写には開始,伸張,終結の3段階がある。DNA分子のプロモーターとよばれる配列にRNAポリメラーゼが強固に結合することでRNA合成が開始する。酵素がRNAの末端に新しいヌクレオチドを結合しながらRNAを伸張し,完成したRNAがDNAから離れることで転写が終結する。(p.33「マイクロ流体デバイスによる蛍光観察実験の効率化」)

●ミセル[micelle]
極性( 親水性)部位と非極性( 疎水性)部位を合わせもった,両親媒性分子がつくる会合体で,水溶液中で非極性部位が内側に集合し,極性部位を外側( 水)に向けた球状構造をつくったものをさす。疎水性部分に非極性物質を溶かすことができ,石けんが汚れを落とすことができるのはこの性質による。有機溶媒中で非極性部位を外側に向け,水溶液を分散させる“ 逆ミセル”もある。希薄溶液中では分子はこのような構造はつくらず単分散しており,ある濃度( 臨界ミセル濃度)を超えると構造体を形成する。両親媒性分子の会合体構造は極性部位と非極性部位の直径( および体積)の比率に左右され,極性部位が大きければミセルに,1:1 に近づくと膜状構造になりやすい。同じ分子からなる集合体でも,疎水性部分にほかの物質をとり込ませることで体積を変え,異なる構造をつくり分けることもできる。(p.40「ヤヌス粒子」

●シーソー機構[seesaw mechanism]
素粒子の標準模型の枠内ではニュートリノには左巻きの成分しかなく,その質量はゼロである。標準模型に右巻きのニュートリノを足すと,ニュートリノが質量をもつことができるようになる。このとき,ニュートリノ振動などで観測することのできる“ 左巻き”ニュートリノの質量は,右巻きニュートリノの質量に反比例して小さくなる。片方を重くするともう片方が軽くなるシーソーのような関係にあるため“ シーソー機構”とよばれる。(p.44「ニュートリノの質量と物質の起源」)


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