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今月のキーワード
パターソン関数 / 擬似液体層 / アンサンブル予報 / 4次元変分法 / 双方向予測システム / 重力マイクロレンズ / ダークエネルギー / ダークマター / 場の凝縮 / 伝搬関数 / プラケット作用
●パターソン関数[Patterson function]
X線回折において,実測できるのは構造因子Fの2乗(強度)である。|F|2を係数にしたフーリエ級数はパターソン関数とよばれ,結晶内の電子密度の自己相関関数であり電子密度分布に関する情報を与える。実測強度から位相の知識なしに構造情報が得られるので,パターソン関数は低分子の結晶解析における重要な解析手法であった。現在では低分子結晶はもっぱら直接法で解析されるが,タンパク質の結晶解析においては重原子位置を求めるさいや,分子置換法において分子の配向を求めるさいに利用される。(p.4「失われた位相を求めて」))

●擬似液体層[quasi-liquid layer]
結晶表面の最外層に位置する原子(分子)は,結晶内部に位置する原子よりも結合力が弱い。このため,平衡状態であっても熱振動の振幅が大きく,結晶の融点よりも低い温度領域で格子点から離れて併進運動を開始する場合がある。このような表面構造相転移を表面融解とよび,融点近傍の固体表面では普遍的に起こると考えられている。表面融解を起こした結晶表面は薄い液体層で覆われるが,この液体層は下地にある結晶の影響を受けているので,いわゆるバルクの液体の構造や物理特性とは異なる特徴をもつ。このことから,この層を単なる液体層ではなく擬似液体層とよんでいる。氷は表面融解を起こす典型的な物質である。その他,PbやCuなどの金属結晶,希ガス結晶,有機結晶など多くの物質表面で擬似液体層の存在が確認されている。(p.24「氷が滑りやすいのは,なぜ?」)

●アンサンブル予報[ensemble prediction]
大気の運動のカオス的性質によって,数値天気予報による予測がしばしば強い初期値敏感性を示すことが知られている。そこで,観測データから最適推定された初期値からの予測だけでなく,推定誤差の範囲で異なる多数の初期値から予測計算を行い,それらの結果を統計的に処理して確率的な予測を行う必要がある。これがアンサンブル予報であり,最近では初期値のランダム誤差だけでなく,数値予報モデルのランダム誤差も考慮されつつある。(p.33「数値天気予報の新たな展開」)

●4次元変分法[4-dimensional variational method]
変分法は汎関数の極値を扱う数学の一分野であるが,数値天気予報では,観測データから初期値を推定する方法の一つとして早くから研究されてきた。具体的には,与えられた第1推定値と観測データのもとで,条件付き確率密度関数の値を最大にする状態変数の値を,ベイズの定理を利用して変分法で求める。最先端の初期値推定法である4次元変分法では,物理法則の離散近似である数値予報モデルを拘束条件として,ある期間内の第1推定値と観測データを与えて,4次元時空間における変分問題を数値的に解く。(p.33「数値天気予報の新たな展開」)

●双方向予測システム[interactive forecasting system]
大気の運動の初期値敏感度が日々変動していることから,より高精度の数値天気予報を実現するためには,観測・同化・予測システムをそれに応じて適合的に変化させる必要がある。その時々の社会・経済からの要請に的確に応えるためにも,このような柔軟なシステムが必要とされる。この構想は,現在実施中の国際研究開発プロジェクトTHORPEXにおいて初めて提唱されたものであり,高感度域に機動的に観測システムを展開するターゲット観測は,その重要な構成要素の一つである。(p.33「数値天気予報の新たな展開」)

●重力マイクロレンズ[gravitational microlensing]
視線方向に2つの天体が重なると,手前の天体(レンズ天体)の重力場によって遠くの背景天体からの光が曲げられる。この現象は重力レンズとよばれ,背景天体の像はリング,2重像,4重像などさまざまな形を取りうる。レンズ天体の質量が小さい場合は,背景天体の像のゆがみではなく明るさの増加だけが観測される。これが重力マイクロレンズである。レンズ天体が惑星をもつ恒星の場合は,恒星による強い増光と惑星による弱い増光が観測される。(p.41「重力レンズで探す地球型系外惑星」)

●ダークエネルギー[dark energy]
宇宙の約70%を占めると考えられている,負の圧力をもったエネルギー。電磁波では観測できない。一般相対論では,エネルギー密度だけでなく圧力も重力源として作用する。そのため,負の圧力により,ダークエネルギーによる重力は,引力ではなく反発力となる。つまり,反重力的な効果をもつ。この結果,宇宙の膨張を加速させていると考えられている。(p.52「一般相対論を長距離で変更できるか?」)

●ダークマター[dark matter]
電磁波で観測不能な物質で,宇宙の約25%を占めていると考えられている。圧力は小さく,したがってダークマターによる重力は,通常の物質同様に引力である。観測されている銀河の回転速度を説明するには,ダークマターによる引力が必要であると思われている。(p.52「一般相対論を長距離で変更できるか?」)

●場の凝縮[condensation of field]
素粒子の標準理論で重要な役割を果たすヒッグス機構では,ヒッグス場とよばれるスカラー場が真空期待値をもって(凝縮して),ゲージ対称性を自発的に破る。ゴースト場凝縮では,スカラー場の微分が真空期待値をもって,ローレンツ対称性を自発的に破る。(p.52「一般相対論を長距離で変更できるか?」)

●伝搬関数[propagator]
場の量子論で粒子を記述する場の演算子の時空点xでの値をφ(x)とするとき,2つの演算子の積 φ(x)φ(y)の真空期待値を伝搬関数とよぶ。この真空期待値が,xで生成された粒子が時空中をyまで伝搬しそこで消滅する(あるいはその逆)様子を表していることから,この名前がついた。一般にはx,y の2つの変数の関数であるが,並進不変性があるので x-yの関数になる。伝搬関数のふるまいから粒子の質量などがわかる。ユークリッド空間での伝搬関数は物性物理学での相関関数と同じものである。(p.60「計算物理第7回(素粒子編)」)

●プラケット作用[plaquette action]
ゲージ場に対する格子上の作用(action)の中で一番簡単なものであり,ウィルソンが1974年の論文で格子ゲージ理論を提唱したときに初めて導入された。正方形の頂点を格子点に取り,4つの辺上のリンク変数の積のトレースをとったものがプラケット項であり,その全格子上での和がプラケット作用である。構造が簡単なため多くの数値計算に用いられているので,標準作用ともよばれている。最近では,プラケット作用だけでなく,長方形や他の複雑なループ上のリンク変数の積の作用も使われている。(p.60「計算物理第7回(素粒子編)」)

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