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今月のキーワード
空力騒音(渦騒音,乱流騒音)/ 横渦,縦渦 / コルモゴロフのスケーリング則 / 数値乱流 / 乱流摩擦抵抗 / 現代制御理論 / マイクロマシン技術 / 方程式の適切性 / 藤田-加藤の原理 / サブグリッドスケールモデル / 渦解像シミュレーション / 地衡流乱流 / 混合 / 攪拌 /練り合わせ
●空力騒音(渦騒音,乱流騒音)[aerodynamic noise(vortex noise, turbulence noise)]
時間的に変動する空気流が励起する音波を空気力学的な音(aerodynamic sound )あるいは空力騒音という。わき出し・吸い込み状態が半周期ごとに変わる変動わき出しは単極音源(monopole source )とよばれ,音波を放射する。それは音圧が音源からの距離に反比例する遠方放射の条件を満たすからである。強さが等しく符号の異なる単極音源が隣接する場合の音波は,重ね合わせによる固有の方向特性をもつ。このような音源を2重極音源(dipole source )という。同様に,強さが等しく方向特性の異なる2重極音源から4重極音源(quadrupole source )がつくられる。非定常な渦運動は,条件により,2重極音源や4重極音源と等価な音波を放射する。これがライトヒル(Lighthill),カール(Curle),パウエル(Powell),ハウ(Howe)らにより明らかにされた空力騒音である。乱流は渦が非定常運動する流れであり,当然,音波を放射する。空力(騒)音は渦(騒)音,乱流(騒)音とよばれることがある。(p.6「柔毛による空力騒音の抑制」)

●横渦,縦渦[transverse vortex, longitudinal vortex]
横渦の典型は一様流が円柱の背後につくる2次元のカルマン渦列である。一つ一つの渦の渦線は円柱軸に平行であり,流れに直交している。このように渦軸が流れに直交する2次元的な渦を横渦という。軸対称流の場合には渦輪が対応する。一方,縦渦とは流れ方向の渦軸をもつ渦であり,流れ方向の渦(streamwise vortex)ともよばれる。速度が異なる一様流が接触する境界の混合層においては,はじめ横渦が成長する。やがてとなり合う横渦が合体融合し,流れは複雑化するが,このとき縦渦が現れ,流れの2次元性を崩す。壁乱流においては,縦渦が主役となり,自励振動的な乱流運動を持続させる。このような横渦や縦渦は流れの骨格であり,空気力や空力騒音を支配する。(p.6「柔毛による空力騒音の抑制」)

●コルモゴロフのスケーリング則[Kolmogorov's scaling law]
発達した乱流では,駆動源の代表的な時空間スケールに比べて十分小さな時空間スケールの運動の統計的性質は,駆動源の詳細な力学的性質にはよらず,単位時間あたり単位質量あたりの平均エネルギー供給率ε[cm2/sec3]と流体の動粘性係数ν[cm2/sec]で特徴づけられるという普遍平衡理論がコルモゴロフ(Kolmogorov 1941)によって提唱された。この2つの物理量の組み合わせで得られる長さ (コルモゴロフ長)lK=(ν3/ε)1/4[cm]と時間(コルモゴロフ時間)τK=(ν/ε)1/2[sec]は,乱流の小規模運動の統計的性質の代表的な長さと時間を表す。これをコルモゴロフのスケーリング則という。(p.13「乱流要素渦」)

●数値乱流[numerical turbulence]
流体の運動方程式を数値的に解いてコンピューター上で実現する乱流を,自然界や実験室における実在乱流に対して,数値乱流という。数値乱流では関連する物理量がすべて計算格子点上に保存されているので,流れの解析を自由自在に行えるという利点がある。ところが反面,乱流場は広い範囲の時空スケールの運動成分が強く相互作用している超多自由度力学系であるので,数値乱流が‘ほんもの’であることを保証するのに必要な計算精度を保つことは,現在のスーパーコンピューターをもってしても力不足で,とても難しい。注目する現象ごとに,その本質をえぐりだす自由度低減の工夫が乱流の数値シミュレーション研究では重要である。(p.13「乱流要素渦」)

●乱流摩擦抵抗 [turbulent skin friction drag]
空気や水などの流れでは,物体の表面で速度が粘着条件からゼロになるため,表面から遠ざかる方向に流速の勾配が生じ,流体の粘性によって表面と平行な方向に力(壁面剪断力)が加わる。摩擦抵抗はこの力による抵抗。流れが層状の静かな流れ(層流)の場合には摩擦抵抗は小さいが,流れが高速になって乱れが生じると(乱流),表面近傍に渦が現れることよって数倍〜数桁増大する。流れの剥離によっても抵抗が生じるが,タンカーや高速列車等,細長い流線型の物体では,この乱流摩擦抵抗が卓越する。(p.20「乱流の制御」)

●現代制御理論 [modern control theory]
古典制御理論では,システムの入出力関係のみに注目し,制御入力に関するパラメーターを適切に決定する。これに対し,現代制御理論ではシステムを記述する微分方程式(状態方程式)に着目し,システムの応答を内部変数(状態量)の推移として捉え,その状態量で構成される適当な評価関数を停留化させるように最適化を行う。古典制御理論では扱えなかった,多入力・多出力をもつ系や非線形システムを扱うことができる。(p.20「乱流の制御」)

●マイクロマシン技術 [microelectromechanical system; MEMS]
薄膜形成,写真製版と同様の露光・現像,気体あるいは液体の薬品を用いた除去加工などの半導体製造技術を応用することによって,微小な機械要素やシステムを製作する方法。基本的に各工程は一括集中処理(バッチプロセス)であるため,微小機械を比較的安価に大量生産できる。自動車用エアバッグの加速度センサー,パソコンプロジェクター用の微小ミラー群,医療用圧力センサーなど,既に製品の一部として組み込まれているものもある。(p.20「乱流の制御」)

●方程式の適切性[well-posedness]
偏微分方程式の時間発展的初期値問題に,解が一意的に存在し,かつ初期値の摂動に対して解が連続的にふるまうとき,その方程式は適切(well-posed)であるという。個々の方程式に対して初期値の空間Xをなるべく広く取って,適切性を解明することが,近代偏微分方程式論の主要な研究対象となる。ナビエ‐ストークス方程式については,X=L3(R3)において時間局所的に適正であることが得られている。その他,ベンジャミン-小野方程式,KdV方程式に対しては,各々X= H3/2(R),X=Hs(R),s>−3/4において時間大域的に適切であることが知られている。(p.28「乱流の数理」)

●藤田-加藤の原理[Fujita-Kato principle]
{u,p}をナビエ‐ストークス方程式の解とするとき,すべてのパラメーターλに対して,{uλ, pλ}も解である。ここで,uλ(x, t)=λu(λx,λ2t),pλ(x, t)=λ2p(λx, λ2t),R3×(0, ∞)上の関数空間Xがスケール不変であるとは,‖uλ‖X=‖u‖Xがすべてのu∈X, λ>0について成り立つことをいう(‖・‖XはXのノルム)。たとえば,X=Ls(0, ∞; Lr(R3))であれば,s, rが関係式2/S+n/r=1を満たすときスケール不変である。ナビエ‐ストークス方程式をはじめとして,一般の非線形偏微分方程式に対しても,解をスケール不変な空間で考察することの重要性が経験的に知られている。これを藤田‐加藤の原理という。(p.28「乱流の数理」)

●サブグリッドスケールモデル(subgrid-scale model)
乱流の数値シミュレーション手法の1つであるラージ・エディ・シミュレーション法においては,支配方程式にフィルター操作を施して,計算格子で解像されるグリッドスケールと格子以下のサブグリッドスケールの分離を行うが,この操作により,ナビエ‐ストークス方程式中にサブグリッドスケール成分を含む相関である応力(サブグリッド応力)が生じる。方程式を完結するためには,この応力をグリッドスケール変数で近似するモデルが必要となるが,サブグリッドスケールモデルとは,このモデルを指す。(p.36「乱流モデリング」)

●渦解像シミュレーション[eddy resolving simulation]
1970年代の集中的な観測を通して,海洋全体は想像以上に水平スケールが200〜400kmほどの渦で満ち満ちていることがわかってきた。この渦は平均流や渦どうしの相互作用を通じて海盆スケールの海流や熱,物質輸送にも重要な影響を及ぼすため,信頼性の高いシミュレーションを行うためにはこれらの渦を直接解像する必要がある。これらの渦を充分に解像できる分解能で行うシミュレーションを渦解像シミュレーションという。(p.41「海洋における乱流」)

●地衡流乱流[geostrophic turbulence]
一般的にレイノルズ数の高い(粘性が小さい)渦運動は乱流的である。このことは大気や海洋で卓越するコリオリ力と圧力傾度力がほぼつり合っている(地衡流)準2次元的な渦運動に対してもいえる。一般的な3次元の乱流やコリオリ力のない2次元的な乱流と対比して,特に地衡流的なバランスにある乱流的な渦運動を地衡流乱流という。(p.41「海洋における乱流」)

●混合[mixing]
日常語としての混合は,ただ混ぜることであり,完全に分離していたものが,互いに相手の中に入り込むことである。工学的な意味での混合は,分子のレベルまで,あるいは少なくとも肉眼では認識できないほどの小さいサイズにまで流体が細分され,互いに入り込むことである。混合は,分子運動,あるいはブラウン運動によっていずれは実現する。混合を速く実現させる手段として,攪拌や,練り合わせという操作がある。(p.53「混ぜこぜを科学する」)

●攪拌[stirring]
流体中にプロペラなどの固体の棒をさしこみ,乱れた流れを与えることによって,流体の混合を促進させることを攪拌という。この操作は,比較的さらさらした流体において有効である。より正確には,レイノルズ数が高いときに有効である。このとき生じる乱流において,乱流変動のスケールが小さくなる,いわゆるカスケードによって流体が分断され,混ぜる相手の流体中に入り込む。(p.53「混ぜこぜを科学する」)

●練り合わせ[kneading]
流体中に円柱などの複数の棒を差し込み,それをゆっくり回転させることによって流れを起こし,流体を折りたたんで混合を起こさせる操作を,練り合わせという。この操作は,粘っこい流体,すなわちレイノルズ数が小さい流体の場合に有効である。実際には,チョコレートやパンの生地の製造などに応用される。これによって生じる流れは乱流ではないが,片方の流体は,複雑にたたまれた模様をつくるので,ラグランジュ乱流ともよばれる。(p.53「混ぜこぜを科学する」)


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