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今月のキーワード
近接場/位相の勾配/ポインティング・ベクトル/地球型惑星/木星型惑星/ヒル半径/生体触媒/ボルマン効果/交差分子線法/PES/タンパク質立体構造形成/膜タンパク質/長距離効果


近接場[near field]
通常,光学顕微鏡で物を見るときには,光の波長に比べてはるかに遠方で像を結ばせている。この場合,回折現象のために,解像度は光の波長による制約を受ける。光の波長程度の短い距離における電磁場(近接場)をとらえることができれば,空間分解能は光の波長による制約は受けない。この原理に基づいて,光の波長よりも狭い微小開口から滲み出す光(近接場光,または,エバネッセント光)を用いる走査プローブ顕微鏡(走査近接場顕微鏡:scanning near field microscope:SNOM)技術が開発されている。(p.4「負の電磁応答を示す不思議な材料」)

位相の勾配[phase gradient]
空間を伝播する波の山あるいは谷を連ねた面,すなわち等位相面を波面とよぶが,位相の勾配とはこの波面の勾配を指している。波の進行方向を指す波数ベクトルはこの波面に垂直な方向を向くので,波面の勾配を計算することにより波数ベクトルの方向を求めることができる。波面が伝播中に物体と相互作用するとき,波面は変形することになる。その結果波面の勾配,すなわち波数ベクトルの方向も変化するので,波は(部分的に)進行方向を変える。これによって屈折や回折の現象が現れる。(p.12「位相計測への挑戦」)

ポインティング・ベクトル[Poynting vector]
電磁波は電場(E)と磁場(H)が互いに直交して伝播する横波として表現される。ポインティング・ベクトルSはS=E×Hで定義され,電磁波のエネルギー束を表している。真空中あるいは等方的な誘電率を持つ媒質内では,ポインティング・ベクトルの方向は電磁波の波数ベクトルと一致する。(p.12「位相計測への挑戦」)

地球型惑星[terrestrial planet]
岩石惑星ともよばれる。岩石を主成分とする外層部と鉄の中心核という構造をもつ。平均密度は5000kgm−3くらいになる。太陽系では内側の4つの惑星,水星,金星,地球,火星が地球型惑星である。質量は地球質量の0.1から1倍くらいである。(p.22「ちりも積もれば地球となる」)

木星型惑星[jovian planet]
巨大ガス惑星ともよばれる。地球質量の10倍くらいの固体(岩石・氷)中心核のまわりに膨大な量の水素・ヘリウムガスをまとっている。平均密度は1000kgm−3くらいである。太陽系では木星,土星が木星型惑星で,質量はそれぞれ地球質量の約300倍と約100倍である。天王星と海王星はガスの割合が質量の10%くらいと少なく,ほとんどが氷なので最近は天王星型惑星(別名,巨大氷惑星)と分類されている。質量は地球質量の10倍くらいになっている。(p.22「ちりも積もれば地球となる」)

ヒル半径[Hill radius]
公転運動をしている惑星の重力圏の大きさを表す長さ。惑星の回転角速度で回転する座標系での惑星の重力ポテンシャルの井戸の動径方向の半径の長さとして定義される。ヒル半径は惑星質量と太陽質量の比の1/3乗と惑星の太陽からの距離に比例して大きくなる。ヒル半径の内側にあり,惑星に対する相対速度がゼロの粒子は惑星に重力的に束縛されていることになる。ロッシュ半径,潮汐半径とよばれることもある。(p.22「ちりも積もれば地球となる」)

生体触媒[biocatalys]
生物の体内から得られる触媒のこと。触媒とは,それ自身が化学変換を受けずに種々の化学反応を加速することができる物質のことである。したがって,生体触媒とは,酵素のことであるといってもよい。しかし,生体から由来する触媒としては,抗体に対して人工的に触媒作用をもたせた抗体触媒も存在するため,もともと酵素ではないタンパク質やその他の生体物質を材料としてつくられた触媒作用をもつ人為的な化合物も含む概念として,生体触媒という言葉が用いられている。(p.32「巨大分子の実時間構造解析」)

ボルマン効果[Borrmann effect]
結晶に入射した1次波(入射波)と回折波のX線透過率が異常に増える現象で,異常透過ともいう。この2つの波が干渉して結晶内に出来る定在波のうち,結晶格子面が節になるものは,原子の位置での振幅が小さいため吸収されにくく,透過率が単純な結晶の厚みから予想されるものの十〜数十倍になる。結晶性が高い場合にのみ観察される。(p.41「超短パルスレーザーでX線をスイッチ」)

交差分子線法
[crossed molecular beam method]

小孔から真空中に噴出させた分子の流れ(分子線)を2本生成して,それらを交差させることで分子間の衝突を起こし,これによる反応生成物の散乱分布を測定する実験手法。分子線発生時の断熱冷却効果により,反応前の分子の内部状態と衝突エネルギーを規定した化学反応を起こすことができる。分子スケールのポテンシャル面上で化学反応がどのように進んだかの詳細な情報が,生成分子の散乱分布に反映されて観測することができる。(p.43「化学反応の完全な理解と予測」)

PES[potential energy surface:ポテンシャルエネルギー曲面]
化学反応系の分子の核配置を座標として,その各点における電子エネルギー値により構成される曲面。N原子系では3N‐6次元となる1枚の曲面は,1つの電子状態に対応する。反応分子間の核の組替えである化学反応は,近似的にこの曲面上での核の相対運動として記述される。近年の量子化学的方法論の進展と計算機能力の急速な向上により,化学反応を決定付けているポテンシャル面の形状を高精度で数値計算できるようになってきた。(p.43「化学反応の完全な理解と予測」)

タンパク質立体構造形成[protein folding]
アミノ酸が一列につながってできているタンパク質分子が,折れたたまれて一定の3次元構造を形成すること。アミノ酸の並びを1次構造,特定の部分ごとに形成されるへリックスなどの部分構造を2次構造,それらが空間配置されてできる分子全体の形を3次構造という。水溶性タンパク質の場合には,実験的に引き伸ばされたランダム状態から最終的な高次構造を形成させることができる。これらの構造はアミノ酸の並び方によって決まるが,膨大な可能性のなかから理論的に最終構造を導くことは物理学上の難問の1つである。(p.52「タンパク質の立体構造形成」)

膜タンパク質[membrane protein]
タンパク質分子のなかで生体膜構造に結合しているものをいう。生体膜はリン脂質が疎水性の炭化水素鎖領域をコアとして,極性の高い部分を両面に配置したリン脂質二重層からなる。膜の疎水性コアに深く進入し疎水的相互作用を介しているものを内在性膜タンパク質という。膜を貫くaへリックスのセグメントをもつ場合が多い。その本数は分子によってさまざまである。内在性膜タンパク質に対して,極性相互作用で膜表面に結合しているものを表在性膜タンパク質という。(p.52「タンパク質の立体構造形成」)

長距離効果[distal effect in protein folding]
膜タンパク質で炭化水素鎖を主にもつアミノ酸が集まったセグメントは,疎水性が高く膜の疎水性コア内に配置される特性が強い。これに対して疎水性が高くない部分が,他の疎水セグメントの作用で強制的に膜内に配置されることがある。このように,その部分自体の特性によらず他の離れた部分からの作用で,いわば受動的に空間配置が決められる場合,このような効果を長距離効果とよぶ。膜タンパク質に限らずタンパク質の構造形成でも同様なことがあり得るだろう。(p.52「タンパク質の立体構造形成」)


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