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今月のキーワード
スティック‐スリップ振動/ブラジルナット効果/(粉粒体の)偏析/クエンチ系/渦拡散/ホール効果/アロット・プロット/気候の10年規模変動/通常型超伝導体/異常分散/群速度

スティック‐スリップ振動[stick-slip oscillation]
間欠的に止まったり動いたりをくり返すようなぎくしゃくしたすべり運動で,固着すべりともいう。自励振動,つまり自身の運動によって外部から非振動的なエネルギーを取り込むために,振幅が減衰せず持続する振動の一種であり,静止時の摩擦抵抗よりも動き出した後の抵抗の方が小さかったりするときなどに生ずる。工作機械のびびり振動やバイオリンの弦の振動などにも,このスティック‐スリップ振動が関係している。(p.4「粉粒体の混合と偏析における非平衡パターン」)


ブラジルナット効果[Brazil nut effect]
異なる大きさの粒の混ざった容器を振ると,サイズの大きな粒が浮かび上がってくる現象。コーンフレーク類やミックスナッツの袋を開けると,輸送に伴う振動のためにブラジルナッツなど大きい粒が上の方に集まっている場合が多いことから,このようによばれている。大きい粒の方が重かったり,大きさが小さい粒とあまり変わらないようなときには逆に,大きい粒が下に沈む現象(逆ブラジルナッツ効果)も見られる。1960年ごろまでにはすでに化学工学技術者たちの間で知られていて,それ以来モデルはいくつも提案されているけれども,さまざまな現象を矛盾なく説明できるまでには至っていない。(p.4「粉粒体の混合と偏析における非平衡パターン」)

(粉粒体の)偏析[segregation]
複数の異なる種類の粒が混ざった粉流体がゆすられたりかき混ぜられたりして流動するとき,それらの粒がもっている物理的性質の違いのために,容器内で成分が偏在する現象。特に粒子のサイズが異なる場合に起こりやすい(粒度偏析,サイズ偏析)が,密度や形状,弾性率,表面の性質など,粒子のほかの性質の差異によっても起こる。粉粒体の混合と偏析は工業などの応用にも直接結び付いた非常に重要な問題で,粒子動力学シミュレーションなどによる研究が盛んに行われている。だが,粉粒体のふるまいを記述するモデルを構築するのは非常に困難であり,偏析を理解する統一的な枠組はない。(p.4「粉粒体の混合と偏析における非平衡パターン」)

クエンチ系[quenched system]
溶融状態の物質を急冷(クエンチ)したりすることによって得られるガラスや非晶質固体のように,温度が低い(つまり,原子や分子の微視的な運動が遅い)ために真の熱平衡への移行が極端に遅くなっている状態が実現している系。初期温度や冷却の速さによらない過冷却状態のような準安定状態とは厳密には区別される。粉粒体の系も“温度”(粒子の速度ゆらぎの2乗和の平方根)がほとんどゼロの,熱平衡からかけ離れているクエンチ系である。(p.4「粉粒体の混合と偏析における非平衡パターン」)

渦拡散[eddy diffusivity]
静止流体中の混合物質の濃度や温度に空間的な非一様性があると,それらが一様化する方向に物質や熱が移動する。これは,分子拡散とよばれる分子レベルの現象である。この場合,拡散の特性長と特性時間は,分子運動の特性に依存する。これに対し,流れが存在すると,流体中の混合物質や熱は流体とともに流されるので,輸送効率は分子拡散をはるかに上回る。特に,渦運動が卓越する乱流では,流体を激しくかき混ぜ,拡散を促進する。拡散の特性長と特性時間は,渦運動の強度と大きさによって与えられる。これを渦拡散(あるいは,乱流拡散)という。(p.13「G. I. テイラーの業績から眺める現代古典物理学」)

ホール効果[Hall effect]
通常は,電流が流れる導体に電流と直角方向の磁場が印加されると,電流と磁場の両方に直角な方向に電圧が生じる効果をいう。これは磁場中で電荷をもつ粒子(キャリア)が運動する際にはローレンツ力が働くことに起因する。異常ホール効果は,電流と直角な方向に磁化が存在する場合,電流と磁化の両方に直角な方向にスピン‐軌道相互作用に起因した電圧が生じる効果である。異常ホール効果は磁性体やスピン偏極したキャリアをもつ物質において観測される。ホール抵抗(Hall resistance)は,ホール電圧を電流で割った値。(p.36「ゲート電圧で強磁性を制御」)

アロット・プロット[Arrott plot]
強磁性転移温度とその近傍での自発磁化,磁化率の逆数を求めるために用いられるプロット。強磁性転移温度近傍では両者が線形関係にある,磁化の2乗(M2)を縦軸に,磁場/磁化(B/M)を横軸にとる。強磁性転移温度では,高磁場の線形領域から低磁場側に外挿した直線が原点を通り,強磁性状態では縦軸を常磁性状態では横軸をよぎる。それぞれの切片が,自発磁化の2乗,磁化率の逆数に相応する。この手法では磁壁の形成や磁気異方性の影響が無視できる領域のデータを利用するので,磁化測定から正確な強磁性転移温度の決定ができる。(p.36「ゲート電圧で強磁性を制御」)

気候の10年規模変動[decadal climate variation]
エルニーニョの周期,約4年より長い,10年規模の周期をもつ気候変動があることがわかってきた。太平洋でも低緯度域と高緯度域の海面水温がシーソーのように変動する現象があり,最近の日本の温暖化傾向には温室効果に加え,この変動の影響もあるといわれている。大西洋等でも同じ時間規模の変動が見つかっているが,それらの関連,メカニズム,エルニーニョとの関連等,まだ不明な点が多く,研究者の注目を集めている。(p.45「3000個の自動浮沈式ブイで海の天気図を描く」)

通常型超伝導体[conventional supercondutor]
高温超伝導酸化物などエキゾチックな超伝導体と対比する場合に,従来から知られているタイプの超伝導金属・合金をこのようによぶ。「従来型超伝導体」という言い方も使われる。「通常型」の超伝導は狭い意味のBCSモデルによって記述される。すなわち電子対(クーパー対)の形成は電子フォノン相互作用に基づく電子間引力によっており,秩序パラメターはs波の対称性をもつ。(p.47「通常型超伝導のニューヒーロー」)

異常分散[anomalous dispersion]
物質の屈折率が光の波長によって異なる現象を分散とよぶ。太陽光が空気中の水滴によって色分離し虹をつくるのも分散現象の一例である。通常,ガラスや水晶などでは紫外線領域に存在する吸収のために波長が短くなるにつれて屈折率は増加する。このような分散を正常分散とよぶ。逆に,波長が短くなるにつれて屈折率が減少する場合を異常分散とよぶ。異常分散は,共鳴吸収領域や利得媒質などにおいて現れる。(p.57「光より速く伝わるもの,伝わらないもの」)

群速度[group velocity]
正弦波で表される波の山や谷は位相速度vcで伝播する。一方,パルスは波長の異なった多くの正弦波の重ね合せによってつくられており,パルスのピークは各成分が位相をそろえた場所で現れる。このため,位相速度が波長によって異なる場合には,パルスのピークは,vg=vc−l(dvc/dl)で伝播する。このパルスピークの伝播速度を群速度とよぶ。異常分散領域では,群速度は光速度を超えたり負にもなったりする。(p.57「光より速く伝わるもの,伝わらないもの」)


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