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今月のキーワード
カルツァ‐クライン(トーラス)コンパクト化/ブレインワールドシナリオ/アノマリー/非可換幾何学/統一場の理論/Dブレイン/ヨッフェ‐プリチャード磁気トラップ/ナトリウムチャネルとカリウムチャネル/パッチクランプ記録法/混成効果/磁気ポーラロン/結晶場/スパッタリング法/ゾル‐ゲル法/鏡像/シュワルツシルト半径

カルツァ‐クライン(トーラス)コンパクト化[Kaluza‐Klein(torus)compactification]
1次元空間で座標がxの点とx+2pRの点を同一視すれば,長さ2pRのコンパクトな区間0≦x<2pRが世界全体となるが,これをトーラス(輪環)とよぶ。カルツァとクラインは,5次元時空(時間1次元+空間4次元)で一般相対論を考え,第5次元目のx5方向がきわめて小さなトーラスにコンパクト化していると考えれば,実質上4次元時空上の重力と電磁気力を統一する理論ができることを示した。(p.6「5次元目の時空は存在するか?」)


ブレインワールドシナリオ[brane world scenario]
われわれの住む時空は(空間3次元+時間1次元の)4次元である。この4次元時空は,実は,もっと高い次元の時空のなかに浮かぶ3+1次元“膜”(brane)である,という考え方をブレインワールドシナリオとよぶ。このような可能性は,10次元時空で定義される超弦理論においても示唆され,そこではいろんな次元をもつDブレインとよばれる膜が存在し,開弦はその膜に端がとらえられていて離れられない。(p.6「5次元目の時空は存在するか?」)

アノマリー[anomaly]
ゲージ理論は,古典論で考えれば当然ゲージ対称性をもっている。ところが量子論で量子補正を考えるとゲージ対称性が壊れる,ということが起こる。この現象を一般にアノマリーとよぶ。理論が無矛盾であるためには,アノマリーは全体としては消えていなければならない。たとえば素粒子の標準理論では,クォークによる量子補正がアノマリーを出すが,レプトンによる寄与によって“奇跡的”にちょうど相殺されゼロになっている。(p.6「5次元目の時空は存在するか?」)

非可換幾何学[noncommutative geometry]
通常の空間の幾何学は,その上で定義される関数の代数的性質から導くことができる。そのとき,関数の満たす代数は,積の順序を交換しても同じ値であるという交換則の成り立つ可換な代数である。そこで,この代数を交換則の成り立たない非可換なものへ拡張し,それをもって新しい空間を定義したと考えよう,というのが非可換幾何学の基本的アイデアである。その結果,通常の微分幾何学では扱えないような,離散的な空間などもこの枠組で扱えるようになる。座標と運動量からなる位相空間を量子力学で考えると必然的に非可換空間として扱うことになる。(p.13「時空は非可換か?」)

統一場の理論[unified field theory]
すべての相互作用を統一的に記述しようという場の理論。一般相対論の完成後,当時知られていたもう1つの力である電磁気力をも取り込んで,すべての力を幾何学的に理解しようという試みがなされ,ワイルの理論やカルツァの理論などが提出された。アインシュタインも彼の研究生活の後半を統一場の理論に大半を費やしたが,成功しなかった。その後,強い相互作用と弱い相互作用が発見され,前者は量子色力学というゲージ理論として,後者は電磁気力と統一されてやはりゲージ理論として定式化され,現在では標準模型とよばれている。この標準模型を単一のゲージ理論に統一する試みを大統一理論とよぶ。弦理論は,大統一のみならず重力をも含んだ究極の統一を成し遂げようという野心的理論である。(p.13「時空は非可換か?」)

Dブレイン[D‐brane]
一般に何次元かの広がりをもつ,弦理論におけるソリトンのような古典解で,非摂動的性質に重要な役割を果たす。これを扱うには,弦の端点にディリクレ(Dirichlet)型境界条件を課すため,ディリクレ・ブレイン,略してDブレインとよばれている(ブレインは,膜を意味する単語 membrane からとられた造語)。(p.13「時空は非可換か?」)

ヨッフェ‐プリチャード磁気トラップ[Ioffe‐Pritchard magnetic trap]
原子を高密度に閉じ込めておくために用いられるトラップの一種。磁気モーメントをもった原子は磁場中に置かれるとゼーマン分裂を起こす。この分裂を用いると,磁場強度の極小点を空間的につくることにより,原子を高密度に集めることができる。磁場の空間的極小点をつくるためのコイルがさまざまに工夫されているが,四葉のクローバー型をしたコイル(クローバーリーフコイル)を向い合せに配置したものがよく用いられ,そこでは葉巻型をした原子分布が得られる。(p.28「ボース凝縮体に渦をつくる光スプーン」)

ナトリウムチャネルとカリウムチャネル[Na+channel and K+channel]
チャネルは,膜を数回貫通する構造をもつタンパク質分子であり,膜内外に異なる濃度で存在するイオンがつくる電位差(膜電位)を利用して,エネルギーを使わずに(受動的に)イオンを通過させる機能をもつ。これに対して,エネルギーを使って(能動的に)イオンを輸送するタンパク質をポンプという。イオンを通過させる部分の構造が,チャネル分子ごとに異なり,透過させるイオンは,チャネル分子ごとに決まっている。ナトリウムチャネルとカリウムチャネルは,それぞれNa+・K+イオンのみを透過させるチャネルである。チャネルが開いてイオンが流れることで,膜電位の値が変化する。本文で述べたように,神経細胞は,この電位の変化を信号として情報を伝達している。膜電位があるしきい値に達したときに開くようなチャネルを電位依存性チャネル(voltage‐gated channel)という。(p.31「神経シナプスでの入力信号のスケーリング」)

パッチクランプ記録法[patch‐clamp recording]
微小なピペット(直径1mm程度)を細胞膜に押し付けると,ピペットの先端を細胞膜がふさぐ形になる。これがパッチである。ピペットを吸引すると,ピペットとパッチが強く密着した状態ができる。もし,パッチの中にチャネル分子が存在すると,そのチャネル分子を通してのみ,細胞の内と外との間にイオンが流れることになる。ピペットの中に電極を挿入することで,パッチ内にあるイオンチャネルを通じた膜電位の変化を計測することができる。これがパッチクランプ記録法である。(p.31「神経シナプスでの入力信号のスケーリング」)

混成効果[hybridization effect, mixing effect]
希土類あるいはアクチノイド元素を含む物質においては,これらの原子のf電子殻が,原子の比較的内側に存在するため,多くの場合,f電子は原子によく局在しており,原子間の結合にあまり寄与していない。しかし,f電子軌道の一部が,周囲の原子の価電子の軌道と重なりをもつため,伝導電子などが,f電子軌道に飛び移り,また,出ていくという過程を通じて,磁性イオン間の相互作用が生じるなど,複雑な現象が生じる。このように,異なる種類の電子軌道の混じり合った状態が生じることによる効果を混成効果といい,これが強い場合には,伝導電子の分布や磁気異方性にまで影響が出ることがある。(p.35「新しいストライプ状態:磁気ポーラロン結晶」)

磁気ポーラロン[magnetic polaron]
磁性イオンを構成要素とする物質中に,希薄な伝導電子(あるいは正孔)が存在する場合,伝導電子(正孔)が,磁性イオンとの磁気的相互作用のため,周囲の磁性イオンの磁気モーメントを一定方向へ偏極させながら,物質中を運動する場合があり,このような状態を磁気ポーラロンという。条件が整えば,このような状態が空間的に周期的に局在化すること(磁気ポーラロンの結晶化)が,理論的に指摘されている。しかし,不純物などの格子欠陥がある場合,磁気ポーラロンはこれらの格子欠陥に束縛されやすい。(p.35「新しいストライプ状態:磁気ポーラロン結晶」)

結晶場[crystal field]
遷移金属や希土類元素などの磁性イオンが物質中にある場合,磁性を担う3dあるいは4f電子殻は,まわりを取り囲む他のイオンからの電場を受け,それらのエネルギー状態や,電子軌道の形が,自由イオンの場合とは異なったものとなる。また,まわりの原子の価電子との混成効果も同様の効果をもたらす。このように,磁性イオンが結晶中にあることによって影響を受ける場のことを結晶場という。希土類イオンの場合,結晶場によるエネルギー分裂が小さく,ちょうど熱エネルギー程度であるため,これの如何が物性を大きく左右することが多い。(p.35「新しいストライプ状態:磁気ポーラロン結晶」)

スパッタリング法[sputtering fabrication]
半導体や金属などの薄膜を形成する方法である。アルゴンなどの低圧力のガス中で直流あるいは交流電圧を加えてプラズマ放電を発生させ,アルゴンイオンなどをつくる。このイオンを金属や半導体などのターゲット材料に衝突させて,叩き出した構成元素を基板上に堆積させ,ナノメートルやミクロンオーダーの厚みの薄膜を作製する。(p.38「電子を引き出す新たな方法」)

ゾル‐ゲル法[sol‐gel fabrication]
ガラス,セラミックス,半導体,蛍光体などの材料合成に用いられる方法である。寒天を例にあげると,まず,寒天の原料をお湯に溶かして微粒子が分散したコロイド溶液(ゾル)をつくる。徐々に冷やすとゼリー状態(ゲル)となる。寒天はここで食べるが,材料合成ではさらに乾燥や加熱によって目的の材料を合成する。半導体の原料となるゾルやゲルを金属表面にコートし,それを加熱するなどして半導体のコーティング膜が合成される。(p.38「電子を引き出す新たな方法」)

鏡像[mirror image]
金属や半導体などの物質表面から電子が真空中へ放出された瞬間,物質表面の内側には見かけ上プラスの電荷をもつ電子の抜け殻が発生すると考えられる。この抜け殻は,物質と真空の界面を鏡に見立てて放出電子を鏡に映した像と見なされる。この見かけの像を鏡像という。(p.38「電子を引き出す新たな方法」)

シュワルツシルト半径[Schwarzschild radius]
質量Mの粒子に対して2GM/c2をそのシュワルツシルト半径とよぶ。一般相対論によると,この内部の事象は外部から直接観測することができない。この意味で,因果の地平線ともよばれる。ブラックホールとは,その実際のサイズが,対応するシュワルツシルト半径以下であるようなコンパクトな天体である,ともいえる。(p.45「重力はなぜ弱い?」)


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