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今月のキーワード
弦理論の臨界次元/T双対性(標的空間双対性)/共形不変性/弦定数/プランク距離/ディラトン/非摂動効果/行列模型/真空/デュアリティ(双対性)/レーザーアブレーション法/赤外線天文衛星/赤外線スペース天文台/ガスハイドレート/温度躍層/南海トラフ/ESR/μSR

弦理論の臨界次元[critical dimension of string theory]
弦(ひも)の運動を量子力学的に取り扱おうとすると,一般には物理量の計算過程において,量子異常項とよばれる項が現れてつじつまの合った理論が構成できなくなる。しかし,特定の時空間の次元Dを選ぶと異常項が消滅することがある。その次元Dを臨界次元という。ボース粒子だけを生み出す弦理論(南部‐後藤の弦)ではD=26,超弦理論ではD=10である。(p.6「超弦理論とは?」)


T双対性(標的空間双対性)[T-duality(target space duality)]
周期性をもつ閉じたトーラス空間,たとえば,aを長さの次元をもつ定数として,周期2pr/aをもつドーナッツの2次元表面上で,輪ゴム状の“ひも”の量子力学的な運動を考える。この場合,“ひも”はトーラスに巻付いている状態(wモード)と,巻付いていない状態(uモード)が可能である。これに対して,周期が逆数2pa/rのトーラス上の量子力学的状態は,wモードとuモードを入れ替えた状態に同等であることが示される。これをT双対性とよぶ。この概念はさまざまな周期性をもつ空間上の“ひも”理論に拡張できる。(p.6「超弦理論とは?」)

共形不変性[conformal invariance]
複素面z=x+iyに対してx=a, y=bは,a, bとしていろいろな実数値を取ることにより,その面の座標系を構成している。いま,zだけの関数w=F(z)=f(x, y)+i g(x, y)とすると,f(x, y)=a, g(x, y)=b も曲線直交座標を構成する。このように1つの座標から他の座標に移った場合,各座標の交わる角度が変わらないものを共形変換という。弦理論や1次元量子力学系では,このような不変性があり,いろいろな物理量の正確な値が求まる場合がある。ここにあげた例は2次元空間の座標であるが,一般にはもっと高次元の共形変換も存在する。(p.6「超弦理論とは?)

弦定数[string constant, string length constant]
弦理論では次元をもった唯一の定数は弦の広がりの程度を特徴付ける長さlsである。これを弦の長さ定数,あるいは略して単に弦定数とよぶ。弦の励起状態のスピンJと静止エネルギーEの自乗との比例関係J=a'E2により傾斜パラメーターa'を定義すると,lsはプランク定数h,光速度cを用いてls=√ ̄2p ̄a' ̄hc2 ̄となる。弦理論では,原理的には弦定数さえ与えれば,他のすべての物理量が計算可能であると考えられている。(p.10「超弦理論と時空構造」)

プランク距離[Planck length]
一般に物理量を数値で表すには単位を定めなければならない。物理法則の内容は単位の選び方によらないので,単位の設定は任意に便利なものを採用できるが,法則が普遍的なものになればなるほど,法則自体から自然な単位を定めることができる。古典物理学の基本法則であるニュートンの力学法則とマクスウェルの電磁場の法則を特徴付ける2個の定数,重力定数と光速度では3個の基本次元を表現できないが,量子論の基本定数であるプランク定数と合せると,それぞれの次元をもった定数を基本定数だけから構成できる。たとえば,距離の次元をもった量はlP=√ ̄Gh/ ̄c3 ̄である。これをプランク長さとよぶ。通常の単位であるcmで表すと,ほぼlP―〜10−33cmである。他の次元をもった量も同様につくれる。lP=lP/c, mP=h/clPでそれぞれプランク時間,プランク質量とよぶ。プランク距離は重力の量子効果が顕著になる長さのスケールである。(p.10「超弦理論と時空構造」)

ディラトン[dilaton]
弦理論は原理的な構造としては,弦の長さを特徴付ける弦定数lsだけが外から与えるべき唯一の定数だが,実際の定式化はいまのところ,弦の相互作用(弦の組み替え)の強さを特徴付ける弦の結合定数gsに関する級数展開(摂動論とよばれる)により定義されている。この定数は弦のスピンと質量がゼロの励起状態の1つであるディラトンの場fの強さとgs=expfの関係にある。もともと「ディラトン」は,時空のスケール変換に対する対称性の自発的な破れに対応して出現する南部‐ゴールドストン粒子に対する名称だが,弦理論のディラトンの性質がその性質と近いためこのようによばれる。弦理論のディラトンは,弦理論が重力子を含む特有のメカニズムのために必然的に存在する重力子の仲間の励起状態であり,弦理論のさまざまな側面で重要な役割を果たす。たとえば,プランク距離は弦定数とディラトン場を用いてlP=exp{2f/(D−2)}lsと表せる。ここでDは時空の次元数である。(p.10「超弦理論と時空構造」)

非摂動効果[non-perturbative effect]
与えられた系の運動方程式を,厳密に解ける方程式に余分な項が付け加わったものとして表し,その余分な項について級数展開することによって運動を解析する手法を摂動論とよび,得られる級数を摂動級数とよんでいる。摂動論はいろいろな系を解くための標準的な手法であるが,摂動級数の収束半径はゼロであることが多く,必ずしも系を完全に記述することができない。このように摂動級数としてはとらえきれない効果を総称して非摂動効果とよんでいる。超伝導やクォークの閉じ込めなど,場の量子論や多体系にあらわれるおもしろい現象の多くは非摂動効果である。(p.16「時空と物質の起源」)

行列模型[matrix model]
非可換ゲージ理論では電気力線は3次元的に広がることはなく,第二種超伝導体中の磁力線のように,1次元方向にのみ伸びることができる。このように1次元的に伸びた電気力線を弦理論と対応させる試みとして,トホーフトによりNが無限大の場合のSU(N)ゲージ理論が考察された。それ以来,行列を力学変数とするいろいろな模型が,ゲージ理論および弦理論の両面から研究されている。ある種の模型では時空自身が行列の自由度から生成されるなど,行列模型はさまざまな興味深い性質をもっている。(p.16「時空と物質の起源」)

真空[vacuum]
古典論では真空とは何もない空っぽの状態のことであるが,量子論では真空とは場の基底状態のことであり,粒子や反粒子がいくつも仮想的に生成したり消滅したりしている複雑な状態の重ね合せである。超弦理論を摂動論を用いて調べてみると,無限に多くの縮退した基底状態,すなわち真空があることがわかる。しかしながら,非摂動効果を取り入れるとこの縮退は解け,唯一の真空が得られると予想されている。(p.16「時空と物質の起源」)

デュアリティ(双対性)[duality]
場に局所的ではない変換を施すことによって,一見異なる2つの場の理論が互いに移り変わることがあるが,そのとき2つの理論は互いにデュアルであるという。たとえば,2次元イジング模型の低温側と高温側は互いにデュアルであり,マクスウェル方程式は電場と磁場の入れ替えに関して自分自身にデュアルである。超弦理論でも,Type I と Heteroticはデュアルであり,Type IIBは自分自身にデュアルであるなど,いろいろなデュアリティが成り立っている。(p.16「時空と物質の起源」)

レーザーアブレーション法[laser ablation]
高出力のパルス紫外線レーザー光を真空チャンバー内のターゲットとなる物質に照射すると,ターゲット物質の表面が瞬間的に高温高圧の溶融状態となり,ターゲット物質が発光をともなって原子または分子状態で放出される。この現象をレーザーアブレーションとよぶ。(p.32「炭化チタンが解き明かす星の最期」)

赤外線天文衛星[infrared astronomical satellite,IRAS
アメリカ合衆国,オランダ,イギリスの3か国により1983年に打ち上げられた,口径60cmの液体ヘリウム冷却望遠鏡を搭載した赤外線全天サーベイ観測衛星。11か月の間に全天の95%を波長12, 25, 60, 100mmの4つのバンドで高感度かつ一様にサーベイし,全天の赤外線マップ,約25万個の点状赤外線源の測光カタログ,約2万個の小さく広がった赤外線天体のカタログ,約5千個の点状赤外線源の8〜22mmの低分解能スペクトルのカタログなどをもたらした。IRASの大成功により,宇宙論から太陽系天体に至るあらゆる方面の研究が飛躍的に発展した。(p.32「炭化チタンが解き明かす星の最期」)

赤外線スペース天文台[infrared space observatory,ISO]
ヨーロッパ宇宙機構により1995年に打ち上げられた,口径60cmの液体ヘリウム冷却望遠鏡を搭載した赤外線汎用観測衛星。途中から日本とアメリカ合衆国もこの計画に参加した。搭載された4つの汎用観測装置(近・中間赤外線カメラCAM,近・中間赤外線分光器SWS,中間・遠赤外線偏光測光器PHOT,遠赤外線分光器LWS)により,2.5mmから240mmの波長域で,撮像,測光,分光,偏光観測が多数実施された。2年半の寿命の間に,特に分光観測により,宇宙空間における水蒸気や水素分子,結晶化した固体微粒子に関する知見が飛躍的に増大した。すでにすべての観測データが世界中の研究者に公開されている(http://isowww.estec.esa.nl/)。(p.32「炭化チタンが解き明かす星の最期」)

ガスハイドレート[gas hydrate]
分子サイズがあまり大きくないほとんどの分子(ゲスト分子)は,適当な温度・圧力条件下で水分子(ホスト分子)と接触すると,ホスト分子間の水素結合により構成される5角形面や6角形面を衣服のように取り込む。その結果,12面体や14面体の籠状構造物をつくり,ゲスト分子はその内部の空隙部を占有する。かご状構造物が集まると,氷状の結晶へと成長する。一般に低温・高圧力で安定な物質である。(p.44「ガスハイドレートと環境エネルギー問題」)

温度躍層[thermocline]
海洋の物理学的性質(水温・塩分濃度・密度など)の分布で,鉛直勾配の大きな部分を意味し,水深数百メートル付近に分布する。これより上層には表層混合層とよばれる比較的均一層があり,温度躍層付近で水温が急激に降下し,さらに深層では水温がほぼ一定となる。ある意味で,深層と表層とは不連続に近い形で分断されている。(p.44「ガスハイドレートと環境エネルギー問題」)

南海トラフ[Nankai trough]
東海,紀伊半島,四国沖を走り水深4500mを越える深海部から成る。駿河湾付近から,四国沖に向かって深度を増しながら南西方向に走り,フィリピン海プレートに属し四国海盆とよばれる水深3000〜4000mの平坦な海底へと連なっている。以前からこの地域に天然ガスハイドレートの存在が指摘されていたが,昨年のボーリング調査によりその存在が直接確認された。また,「東海地震」の発生が危惧されている地点でもある。(p.44「ガスハイドレートと環境エネルギー問題」)

ESR[electron spin resonance]
物質中の電子状態を測定する手段。電子はgmBという大きさの磁気モーメントをもっているため,磁場中ではそのエネルギーがE=±gmBBという値をとる。これをゼーマン分裂というが,このエネルギー差に相当する電磁波を共鳴吸収する性質を利用するのがESR法である。たとえば,磁場の大きさと共鳴振動数の値の比からgの値が測定される。強磁性体においては,透磁率の大きさやその非均一性などを調べることができる。(p.49「常識を覆す新しい強磁性体」)

μSR[muon spin relaxation]
ミューオン・スピン緩和法。スピン偏極しているミューオン(ミュー中間子)が物質中に入射すると,ミューオンは平均寿命2.2msで崩壊し,スピン方向にm+は陽電子をm−は電子を放出する。この陽電子(電子)の放出された方向と数を測定することで,物質内部の磁場の大きさや磁場のゆらぎの様子がわかる。主な特徴として,外部磁場をかけない零磁場下での実験が可能なこと,測定の感度が温度によらないことがあげられる。またmSR法は,磁気的なゆらぎの観測において独特の観測時間領域(10−5〜10−9秒)をもち,中性子散乱実験(10−9〜10−12秒)やNMR(>10−4秒)の特徴的な時間領域をちょうど補完する形になっている。(p.49「常識を覆す新しい強磁性体」)


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