人の国際移動を多角的に考察

人の移動事典

編者代表 吉原 和男 慶應義塾大学文学部教授
A5判・552頁  本体価格18,000円 
ISBN978-4-621-08719-0
発 行:丸善出版株式会社



アジア太平洋地域の域内および域外から、日本およびアジアへの移民・移住など人の国際移動(マイグレーション)について、歴史学・経済学・社会学・文化人類学・政治学・人口論・移民法制・ジェンダー・社会統合・多文化共生の視点から、総合的に論じる中項目事典です。
グローバリゼーション時代における日本在住外国人の人口増加および我が国の「多文化」化と近未来における日本人労働人口の減少に対応した総合政策を立案するための視座を提供するユニークな事典です。
ワンテーマ=見開き2ページ構成で、移民に関心を持つ学生や一般の方にも興味深く読めるテーマを豊富に収載しています。

編  者

蘭 信三 上智大学外国語学部教授
伊豫谷登士翁 
一橋大学名誉教授
塩原 良和 
慶應義塾大学法学部教授
関根 政美
 慶應義塾大学法学部教授
山下 晋司 
東京大学名誉教授/帝京平成大学現代ライフ学部教授
吉原 直樹
 東北大学名誉教授/大妻女子大学社会情報学部教授

刊行にあたって

 本本事典は日本に視座を置いて、日本人を含むアジアの人々の移動を多くの学問分野から考察する。わが国もグローバリゼーション時代における産業・通商とそれに伴う人の動きに対して一時も無関係ではいられなくなってきたことは、昨今のニュースでも実感するところである。
 〈人の移動〉を包括的にとらえて総合的に研究することは、このような時代にあって日本の現代および近未来の人口構成に起因する諸問題に関わる多くの議論に貢献できるであろう。ここで言う〈人の移動〉とは、従来は国際移住・国際労働力移動・移民、さらに観光(ツーリズム)に伴う移動など、学問分野あるいは方法論の違いからさまざまな用語で表現されてきた現象を包括的にとらえようとする試みであり、英語ではおそらく〈マイグレーション〉が相当する。
 〈人の移動〉は他の社会現象にもまして単一の学問分野からだけでは解明しにくいため、基礎的な総合研究をめざす複数の分野での〈人の移動〉についての先端的な課題を、本事典では6部門に分けて取り上げる。
 多文化化は歴史的にみて現在ほど顕著な時代はなかったので、さまざまな局面で新たな諸問題を次々と生じさせていくことになるであろうから、このことに注目した総合政策が必要となるのである。総合政策そのものは主に政府における立法と行政の主管になるが、一方で広く国民・住民に共有されるべき現状理解に資する各学問分野の成果を中間的にでも総括しようとする試みの蓄積が期待されているのである。
 6部門に含まれる項目は相互に連関している面があり、重複したテーマあるいは事象を扱っている場合がある。しかしながら、視点の置き方や学問分野の方法論の違いがあるために、異なる項目が相互補足的になっていることを期待したい。また、当初の企画が「読む事典」を標榜して計画されたので、一部の項目では執筆者の立場・方法論が強く表れていると感じられることがあるかも知れない。あくまでも執筆者の主体性を尊重し、編者はできるだけ見解と判断の多様性を確保できるように努力することを申し合わせ、必要に応じて編集委員会で意見交換をしたことを記しておきたい。
2013年9月吉日
編集代表 吉原 和男

目 次

第 I 部 近現代日本と人の移動 (編者:蘭 信三)

1. 近代日本をめぐる人の移動
北海道移民/紡績女工/小笠原諸島をめぐる人の移動/外国人居留地/近代日本と華僑/近代日本における移植民政策/北米への人の移動/中南米移民/大陸・東南アジアへの人の移動/移民と人種主義/沖縄近代と人の移動/からゆきさん

2. 日本帝国の膨張とアジアをめぐる人の移動
東南アジアへの日本人の移動/台湾への日本人の移動/朝鮮への人の移動/樺太への人の移動/満洲への日本人の移動/南洋への人の移動/朝鮮人の日本内地への移動/朝鮮人の満洲・ロシア・樺太への移動/東アジアにおける中国人の移動/帝国の狭間をぬう人の移動/戦前期の日本女性の移動/反植民地運動家たちの留学・亡命/ユダヤ難民/戦争と人の移動/日本軍「慰安婦」

3. 帝国崩壊と人の還流
敗戦・占領と日本人の移動/サハリン先住民族の〈引揚げ〉と〈残留〉/沖縄をめぐる引揚げ・送還/残留日本兵/「解放」と朝鮮人の移動/在日朝鮮人社会と中国朝鮮族社会/戦争花嫁

4. 冷戦・ポスト冷戦と人の移動
高度成長と向都離村/同郷団体/戦後開拓と海外農業移民/沖縄県からの海外移民/炭鉱離職者の移動/集団就職/北朝鮮帰国事業/戦後台湾と沖縄をめぐる華僑華人の移動/中国残留日本人/インドシナ難民



第II部 グローバル化と移民労働者 (編者:伊豫谷登士翁)

1. 世界中枢都市の台頭とアジアにおける人の移動

アジアのグローバル・シティ――東京・香港・シンガポール/肥大するアジア・メガシティとインフォーマル・セクター/農村社会の解体と人口の流動化

2. グローバリゼーションとアジア
世界経済の統合化とアジア人移民/グローバルな政策規範と日本の移民法制,制度の変化/難民の制度化とアジア難民/難民センターの社会学/越境家族/高度専門家の移住とローカリティの変容(トランス・ローカリティ)/アジア,沖縄,日本/感染症と出入国管理/監視社会と移民管理

3. 日本の「外国人労働者問題」と日本社会の変容
南アジア系外国人の移動と日本/少子高齢化社会と家事,介護労働者としてのアジア人女性/フィリピン海外出稼ぎ者の出身階層/研修・技能実習制度の虚実/日系人,ニッケイと「血縁」幻想の崩壊/日本の中の移住者支援団体/日本の中のイスラーム/相似形としての日本と韓国の外国人労働者

4. 移民の女性化とアジア
移動の女性化(フェミナイゼーション)/女性,貧困,出稼ぎ/性労働のグローバル化/クィアが移動すること,移動をクィアすること



第III部 現代アジアの人の移動と日本の対応 (編者:塩原 良和・関根 政美)

1. 戦後日本の外国人受け入れ政策とその影響
戦後の入国管理政策の変遷/進む在留管理の再編強化――外国人登録から在留カードへ/「外国人犯罪」と日本社会/日本における外国人高度人材受け入れの現状/高度人材予備軍としての留学生

2. 多文化社会日本の市民権
国籍・市民権――血統主義と属地主義/外国人参政権/外国籍住民の公務就任権/難民・ボートピープル・無国籍者・非正規滞在者/在留特別許可とアムネスティ/外国人と社会保障/外国につながる子どもの教育

3. 多文化社会日本と社会的包摂への課題
間接雇用の中の日系人労働者/日本における多文化共生概念の展開/国・自治体と多文化共生施策/外国人集住都市会議/「外国人住民」支援とNGO・NPO/国際結婚/地方・農村部における多文化共生の現状/東日本大震災後の移民のライフサイクル/東日本大震災以後の日本の市民運動と外国人住民/東日本大震災をめぐるメディアと多文化共生/現代日本におけるヘイトクライム・人種差別/アジア太平洋に向かう日本人若年労働者



第IV部 アジア系コミュニティと構築されるエスニシティ (編者:吉原 和男)

1. 東アジア
在日コリアンの家族とエスニック・ネットワーク/韓国人ニューカマー女性の移動と暮らし/日本を生きる中国朝鮮族/韓国系のプロテスタント教会とニューカマー/在日コリアンの巫俗信仰――一世から四世へ/在日コリアンの親族会霊園/日本社会との共生をめざす中華街/チャイナタウンの寺廟を支える人々/在日華人の宗教祭祀と中国人アイデンティティ/中華学校のいま/日本の農家に嫁いだ中国人女性/中国系住民の交流組織――華友会/在日中華系キリスト教の現在/華人系新宗教――佛光山と一貫道の日本進出/移住と墓地――在日華僑墓地と中国人ニューカマー

2. 東南アジア
フィリピン人の定住化と多文化共生――名古屋市中区の事例から/在日フィリピン人と国際結婚/フィリピン人のたまり場としてのサリサリ・ストアー/日本におけるフィリピン人キリスト教会とコミュニティ/日系フィリピン人支援/フィリピンとインドネシアの日系人の歩みと日本への「帰還」現象/滞日インドネシア人のキリスト教コミュニティ/ベトナム人のコミュニティと宗教/滞日ビルマ系移民およびタイ系移民のエスニック・コミュニティと仏教/日本に滞在するタイ人/定住ビルマ(ミャンマー)人の新動向

3. 南アジア・西アジ
日本のインド人コミュニティ――新旧の様相と多様性/髭とターバン(スィク教徒)/日本のネパール人社会/日本のムスリム人口とコミュニティ/イスラームの宗教実践と家庭生活/ムスリム児童の学校教育/日本のムスリムコミュニティと東日本大震災の被災者支援活動

4. 南米
在日ブラジル人のネットワーク/ブラジル人のキリスト教会/日系宗教の在日日系人への対応の現状/在日ペルー人と「奇跡の主」



第V部 変容する移民コミュニティと多重化するメディア (編者:吉原 和男)

1. 変容する移民コミュニティ

トランスナショナル・コミュニティとクレオール化する社会/移民サイクルと世代/コリアンコミュニティの形成と定住プロセス/在日中国人コミュニティの過去と現在/アジア社会のイスラーム化と移民コミュニティ/移民コミュニティの中の教会ネットワーク/移民コミュニティと多文化ソーシャルワーカーの役割/ニューカマーとオールドカマーのせめぎあい

2. 移民とナショナリティ
チェーン・マイグレーションと移民システム/移民コミュニティと遠隔地ナショナリズム/移民におけるナショナリティ,脱ナショナリティ志向/ディアスポラ化する移民/境界人性,二文化性,異人性/オリエンタリズムからの離床/東日本大震災と移民コミュニティ

3. 多重的な情報環境の形成
多重化する情報環境/移民による多言語化のゆくえ/グローバリゼーションの中のエスニック・メディア/文化的エンクレイブ化の現在/ディアスポラ・メディアの存在形態/移民メディア学の方法と課題/日本人向け現地メディアの変容

4. 交錯するエスノスケープ
交錯するエスノスケープ/移民文学の射程/音風景の中の移民コミュニティ/食の風景と移民コミュニティ/移民コミュニティの拡大とエスニック・ビジネス/創造都市の中のエスニシティの風景/移動とリスク・セキュリティの多層的風景



第VI部 観光とライフスタイル移住 (編者:山下 晋司)

1. アジア観光

アジア観光の誕生/アジアにおける観光開発/観光商品の作り方/ホテルから見るアジア,アジアから見るホテル/食と観光/アジアン雑貨とアジア観光/女たちが旅するアジア/記憶の継承――ポストコロニアルツーリズム

2. 新しい動向
エコツーリズムの未来/田舎観光,田舎暮らし――グリーンツーリズムの現在/美ら海とおばぁ――沖縄イメージを旅する/バリ観光のフロンティア/文化観光のディレンマ/世界遺産の苦境――中国雲南省麗江/アンコールへの旅――世界遺産を生きる/メディカルツーリズム(医療観光)の戦略

3. 日本からアジアへ
悠久の中国,ビジネスの中国/キーセンから韓流へ/タイ人の微笑み/ロングステイ――暮らすように旅すること/外こもり――日本を降りる若者たち/インドという聖地

4. アジアから日本へ
ビジット・ジャパン・キャンペーン/韓国人が旅する日本/中国人がやって来る/台湾人の日本経験/ニセコのオーストラリア人



付 録

(1)法令

【付録1】旧国籍法(明治32〈1899〉年、法律第66号)
【付録2】移民保護規則(明治27〈1894〉年、勅令第42号)
【付録3】国籍法(昭和25〈1950〉年、法律第147号)
【付録4】外国人登録令(昭和22〈1947〉年、勅令第207号)

(2)統計
【付録5】戦前期の在外日本人(移民)の統計表
【付録6】植民地・勢力圏における日本人人口の推移と職業別構成
【付録7】在日朝鮮人人口の推移
【付録8】日本在住中国人数
【付録9】戦後在留外国人統計(1948〜2012年)
【付録10】国際旅行到着数の推移(1980〜2030年)
【付録11】海外旅行者数の国際ランキング(2009年)
【付録12】外国人旅行者受入数の国際ランキング(2010年)
【付録13】出国日本人数、訪日外客数(1961〜2012年)
【付録14】日本人海外旅行者の主要渡航先(2010年)
【付録15】日本人海外旅行者の性別・年齢階層別構成比率
【付録16】国籍別訪日外客数の推移(2001〜2012年)
【付録17】国籍別訪日外客の割合(2012年)
【付録18】国・地域別に見た訪日旅行動機
【付録19】平成23(2011)年末における外国人登録者数について
【付録20】平成25(2013)年3月31日住民基本台帳人口・世帯数
     平成24(2012)年度人口動態(都道府県別)(外国人)
【付録21】平成24(2012)年における難民認定者数等について
【付録22】国籍(出身地)別不法残留者数の推移

(3)アソシエーション
【付録23】在日アジア系住民の宗教団体・組織一覧
【付録24】インドネシア出身者の教会
【付録25】日本定住ビルマ人組織一覧表
【付録26】日本語指導が必要な児童生徒の受け入れ状況
(平成24〈2012〉年度)
【付録27】アジアの日本人会 
【付録28】アジアのフリーペーパー


組見本









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